親が認知症と診断された。施設に入ることになり、誰も住まなくなった実家をどうにかしたい。でも、名義は親のままで、子どもの私たちが勝手に売ったり貸したりしてよいのか分からない。そんな状況の方へ。
私は、認知症の叔父の成年後見人を3年務め、叔父が住んでいた家を、家庭裁判所の許可を取って売却しました。親ではなく叔父の家で、親の家の売却や相続の経験はありません。そのうえで、後見人として家庭裁判所に書類を出した立場から、判断の順番を書きます。
結論:「本人が契約できる状態か」で、進め方が三つに分かれる
| 親の状態 | 家について | 最初にやること |
|---|---|---|
| 診断はあるが、内容を理解して判断できる | 本人が契約すれば、売却・名義変更・賃貸ができる可能性がある | 医師や司法書士・不動産会社に、契約できる状態かを早めに相談する。できるうちに家族信託などを検討する |
| 判断が難しくなっている | 本人が契約しても無効になるおそれがある。子どもが代わりに売ることもできない | 成年後見の申立てを検討する。家庭裁判所に相談する |
| すでに成年後見人がついている | 売却・賃貸には家庭裁判所の許可が要る | 後見人が、許可の申立ての準備をする |
つまり、認知症の親の家を売れるかどうかは、診断名ではなく、そのときの本人の判断力で決まります。ここを自分たちだけで決めようとせず、医師や専門家に確かめるところから始めるのが、遠回りに見えて近道です。
なぜ子どもが勝手に売れないのか

家の名義が親なら、売る・貸す・名義を変えるといった契約は、親本人の意思で行うのが原則です。民法3条の2は、契約などをした時に意思能力がなかったときは、その契約は無効としています(民法3条の2、2026年10月19日にe-Gov法令検索で確認)。
ただ、あとから「契約したとき、本人は内容を理解していなかった」と争われると、契約が無効になりかねません。売却のように金額の大きい取引では、この不安を抱えたまま進めるのは避けたいところです。
子どもが代理人として売ることも、本人の委任があって初めて成り立つ話です。本人が委任の内容を理解できない状態では、頼れる方法になりません。
成年後見人がついた場合:売却にも賃貸にも家庭裁判所の許可が要る
本人の判断が難しい場合、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらう道があります。成年後見人は、本人の住んでいた家や敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などをするときは、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3、2026年10月19日にe-Gov法令検索で確認)。
裁判所の案内によると、許可を得ないで処分をした場合、その処分は無効になります。対象は、本人がいま住んでいる家だけではありません。病院や施設に入る前に住んでいた家など、これから戻る可能性がある家も含まれます。申立ての手数料は収入印紙800円で、郵便切手代などは裁判所ごとに違います(裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」、2026年10月19日確認)。
私が家を売ったときの流れ
私は叔父の後見人として、家庭裁判所に許可の書類(上申書)を出しました。許可が出るまでは約1か月でした。不動産会社は、叔父が以前から付き合いのあった会社に頼みました。
裁判所によって、必要な書類や審理にかかる期間は違います。私の約1か月はあくまで私のときの話です。実際に進めるときは、後見開始の審判をした家庭裁判所の案内を確かめてください。
売却のあと、叔父にかかる税金と介護費用が上がりました。家を売ればお金が入るぶん、本人の負担が増える面もあります。売ると決める前に、売却後の費用がどう変わるかも、頭に入れておいてください。
貸すときも、同じ線引きで考える

空き家を貸して家賃収入を得る方法も、本人名義の家なら、貸す契約は本人が結ぶことになります。
判断が難しい状態なら、売却と同じように、本人が契約することはできません。成年後見人がついている場合は、賃貸も民法859条の3の許可の対象です。
また、貸すにはほかの手間も出てきます。私が見てきた空き家では、庭の雑草が隣の敷地に入り込み、何年も動かしていない車が残っていました。貸す前の片付けと修繕を誰がするのか、費用を誰が出すのかを、先に決めておくことをおすすめします。
判断の基準:どこまで自分で進めて、どこから専門家に任せるか
全部を自分で調べ切る必要はありません。私は、次のところで線を引くのが現実的だと考えています。
- 名義と親の状態を確かめる:登記簿で名義人を確認し、医師の診断書や介護の記録など、いまの状態が分かるものを集める。ここまでは家族でできます
- 「契約できる状態か」は自分で決めない:判断が揺れるときは、医師・司法書士・家庭裁判所に聞く。自分で決めずに、聞いて、聞いた内容を記録するのが基準です
- 成年後見か、まだ元気なうちの備えかを選ぶ:判断力が残っているなら、家族信託などの備えを専門家に相談する。難しくなっているなら、成年後見の申立てを検討する
- 売却・賃貸の実務は不動産会社・専門家に任せる:査定、契約書、登記は専門家の仕事です。家庭裁判所に出す理由(なぜ売る必要があるか)は、後見人が説明できるようにしておく
記録の残し方も、同じくらい大切です。いつ、誰に、何を聞き、どう答えられたか。そして、なぜその方法(売る・貸す・当面は管理する)を選んだか。後見人は家庭裁判所に報告する立場ですが、家族だけで進める場合でも、きょうだいや親族に説明するときにこのメモが助けになります。
元気なうちなら:家族信託という選択肢

本人にまだ契約できる判断力があるなら、家の管理や売却を家族に任せる契約を、あらかじめ結んでおく方法があります。
家族信託はその一つで、費用や手間がかかるため、誰に頼むかが肝心です。家族信託の相談先として、おやとこ(PR)のように、まず相談してみる窓口もあります。料金や対応範囲は、公式サイトで確かめてください。
私自身は家族信託を使っていません。後見人として家庭裁判所の許可を取る道を通った立場なので、家族信託については制度の説明にとどめます。詳しくは、家族信託の手続きの流れと費用の記事も参考にしてください。
売ると決めたら:査定は専門の窓口に聞いてみる
売ることにしたとき、誰に頼むかで迷うかもしれません。私は叔父が以前から付き合いのあった会社に頼みましたが、他社と査定を比べたかどうかは、この記事では書けない部分です。訳あり物件や売れにくい家の相談を受け付けているワケガイ(PR)のようなサービスもあります。使うなら、成年後見人がついている場合は家庭裁判所の許可が要ることを、最初に伝えてください。
よくある質問
親が認知症でも、家の名義変更はできますか?
売買や贈与で名義を変えるには、親が契約の内容を理解できる状態であることが前提になります。判断が難しいときは、本人が契約しても無効になるおそれがあります。親が亡くなったあとの相続による名義変更は、別の手続きです。どちらの場合か、まず司法書士や法務局に確かめてください。
成年後見人は、必ず家を売らなければなりませんか?
そうではありません。売るかどうかは、本人の暮らしや費用の見込みを見て、後見人が判断します。売る場合に、家庭裁判所の許可が要るということです。
施設に入った親の家は、そのまま放っておいてもよいですか?
私が管理した空き家では、照明を消し忘れて自治体から連絡が来ることがありました。電気や水道をどうするか、庭や郵便物を誰が見るか、最低限の管理は決めておくと安心です。詳しくは空き家の管理とセキュリティ対策の記事もどうぞ。
成年後見人になるには、何から始めればよいですか?
後見開始の申立ては、本人の住所地の家庭裁判所に行います。私が実際に通った流れは成年後見人になれるのは誰かの記事に書いています。手続きは裁判所の窓口で最新の案内を確かめてください。
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親が元気なうちに、家の備えを相談する
判断力が残っているうちなら、家族信託などの方法を選べることがあります。家族信託の相談ができる「おやとこ」に、自分の家の場合はどうなるかを聞いてみるのも一つの方法です。
あわせて読みたい
※この記事は一般的な情報で、法律の助言ではありません。本人の意思能力の判断や、売却・名義変更・賃貸の手続きは、個別の事情で変わります。家庭裁判所や司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。
この記事を書いた人:くじら99(元・成年後見人)
300km離れた認知症の叔父の成年後見人を、家庭裁判所に選ばれて、会社員のまま3年務めました。法律の専門家ではありません。家庭裁判所に出した書類や見積書など、記録が残っていることを書いています。運営者について
