目次
はじめに:他人の「家を売る」という、成年後見人最大のプレッシャー
こんにちは。元・成年後見人のくじら99(@9jira99)です。
突然ですが、皆さんは「家を売ったこと」がありますか?
普通に生きていれば、マイホームを「買う」ことはあっても、「売る」という経験を持つ人はそう多くはないはずです。不動産業界で働いているわけでもない素人の私が、まさか人生で初めての不動産売却を「他人の家(叔父の実家)」で経験することになるとは、夢にも思っていませんでした。
成年後見人の業務は、銀行口座の解約やインフラの停止など多岐にわたりますが、その中でも「不動産の売却」は、動く金額が数百万〜数千万円と桁違いであり、絶対に失敗が許されない最も精神的プレッシャーの大きい大仕事です。
私が担当したご本人(Aさん)は、すでに認知症が進行して特別養護老人ホームに入所しており、かつて住んでいた家や、両親から相続した古い実家は完全に「空き家」となっていました。
この記事では、誰も住まなくなった空き家を整理している最中に見つかった「一通の手紙」から始まった怒涛の不動産売却エピソードを通じて、「成年後見人が不動産を売るための家庭裁判所の手続き(上申書)」や、「売却手続きのリアルな流れ」を約2万文字に迫る圧倒的ボリュームで徹底解説します。
離れて暮らす親の「実家」の処分に悩んでいる方、成年後見人として不動産売却に直面している方は、絶対にこの現実(後半まで)を知っておいてください。
この記事を書いた人:くじら99(元 成年後見人)
遠方(300km以上)に住む認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され成年後見人を務めた経験を持つ会社員。
免責事項
当サイトは個人の成年後見業務の実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。個別具体的な手続きについては、弁護士・司法書士などの専門家や管轄の家庭裁判所等へご相談ください。
第1章:ゴミ屋敷で見つけた「一通の手紙」がすべてを変えた
事の始まりは、私が成年後見人に就任し、前回の記事でお話しした「実家の片付け(生前整理)」を業者と一緒に進めていた時のことです。
足の踏み場もないほどモノが散乱したAさんの自宅の居間で、ホコリを被った郵便物の山を一つひとつ確認していました。督促状やチラシに混じって、地元の不動産会社から届いた一通の古びた封筒が出てきました。
『A様。ご依頼いただいておりました〇〇町の実家(空き家)の売却件ですが、ついに買い主様が見つかりました。つきましては、今後のご契約手続きについて……』
認知症になる直前、本人が「売却」に動いていた
くじら99私は全身から血の気が引きました。
なんとAさんは、認知症が本格的に進行して施設に入る数年前の段階で、自分自身の判断で「もう誰も住んでいない実家を売却しよう」と地元の不動産会社に依頼し、媒介契約を結んでいたのです。
しかも、その手紙の日付を見ると、買い主が見つかって契約の一歩手前まで進んだところで、Aさんが倒れて認知症が発症し、手続きが完全に「宙に浮いた状態」でストップしてしまっていたことが分かりました。
私はすぐさま、手紙の宛先である地元の不動産会社に電話をかけました。
「あの、Aの甥であり、現在成年後見人を務めております、くじら99と申します。実は手紙を見つけまして……」
電話口の担当者は、ホッとしたような、呆れたような声で言いました。
「ああ、ご親族の方ですか! Aさんと突然連絡が取れなくなってしまい、買い主様もお待ちいただいている状態で大変困っていたんです。後見人さんがついたのであれば、すぐにでも売買契約を進めましょう!」
第2章:「ちょっと待って!」まずは家庭裁判所に相談が鉄則


「買い主が待っているから、明日ハンコを持ってきてください」
不動産会社の担当者は契約を急かしてきました。しかし、私はここで絶対に首を縦に振るわけにはいきませんでした。
なぜなら、成年後見人の実務において、「家庭裁判所の許可や相談なしに、勝手に数千万円の財産(不動産)を処分すること」は、後見人の解任や損害賠償請求にも繋がりかねないタブー中のタブーだからです。
私は不動産会社に対し、「現在Aは重度の認知症で施設におり、私が法的な代理人です。
しかし、不動産売却については家庭裁判所の指示を仰ぐ必要があるため、しばらくお時間をください」と平謝りし、なんとか手続きを猶予してもらいました。
💡 【余談】「訳あり物件」や「長期空き家」の処分に困っている方へ
今回のAさんの実家は、たまたま買い主が見つかっていましたが、世の中には「老朽化しすぎた空き家」や「事故物件」、「親族間で揉めている共有不動産」など、普通の不動産屋では門前払いされる『訳あり不動産』がごまんとあります。
もし、親の家がこうした「売るに売れない不良債権」になりそうで困っているなら、問題が深刻化する前に、訳あり物件専門の買取業者に査定と相談をしておくことを強くお勧めします。
第3章:法律の壁!「居住用不動産」と「それ以外」の決定的な違い
不動産会社を待たせたまま、私はすぐに管轄の家庭裁判所の担当書記官に電話をかけ、現状を報告しました。
ここで、成年後見人の不動産売却における「極めて重要な法律のルール」を突きつけられます。
実は、成年後見人が売却しようとしている不動産が「本人の居住用不動産であるか、そうでないか」によって、手続きのハードルが天と地ほど変わるのです。
【引用:民法第859条の3(成年後見人による居住用不動産の処分等)】
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
「居住用」の場合は、裁判所の【許可】が絶対条件
もし売却する家が、Aさんが倒れる直前まで生活拠点としていた家(居住用不動産)であったり、将来施設から戻ってくる可能性がある家であった場合。後見人の独断で売ることはできず、家庭裁判所に「居住用不動産の処分許可申立て」という重い手続きを行い、裁判官の「許可の審判」を得なければなりません。



これに違反して売却すると、契約は無効になります。
今回は「非居住用(空き家)」なので後見人の判断でOK、しかし…
幸いなことに、今回見つかった売却予定の家は、Aさんが住んでいた家ではなく、さらに昔に両親から相続して長年放置されていた「完全なる空き家(非居住用不動産)」でした。
書記官はこう言いました。
「居住用ではない単なる空き家であれば、法律上、家庭裁判所の許可の審判は不要です。成年後見人であるくじら99さんのご判断で、売却を進めていただいて構いません」
私は「よかった、許可なしで売っていいんだ!」と胸を撫で下ろしました。
しかし、書記官はすかさず釘を刺してきました。
「ただし、数千万円の財産が動く重大な行為です。後日のトラブルを避けるためにも、売却の理由や条件を記載した『上申書(じょうしんしょ)』を、事前に裁判所へ提出しておいてください」
第4章:家庭裁判所への「上申書」の提出(自分の身を守る盾)
「上申書(じょうしんしょ)」とは、簡単に言えば「私(後見人)はこれからこういう理由で、この条件で不動産を売りますよ。裁判所さん、報告しましたからね」という、家庭裁判所へのお伺い・報告書面のことです。
法律上は提出義務がなくても、これを提出しておくことで「後見人が勝手に不当な安値で売却した」といった後々の親族トラブルや、裁判所からの疑念を未然に防ぐことができます。成年後見人としての「自分の身を守るための最強の盾」となるのです。
私はエクセルで書面を作成し、以下の内容を簡潔かつ論理的に記載して家庭裁判所に郵送しました。
上申書に記載した3つのポイント
- ご本人の現状や経緯: Aさんは重度の認知症で施設に入所しており、回復して自宅に戻る見込みがないこと。また、Aさん自身が発症前にすでに不動産会社へ売却を依頼していたという「本人の意思」が存在していたこと。
- 不動産売却の必要性: 当該物件は長年の空き家であり、維持管理費(固定資産税や火災保険料など)が家計を圧迫していること。売却により資金を得ることで、Aさんの今後の安定した施設費用を確保できること。
- 売却先の情報と条件: すでに決まっている買い主の情報、売却金額、不動産会社へ支払う仲介手数料などの諸経費、最終的にAさんの手元に残る金額について明記。
この上申書を提出し、裁判所から「確認しました、問題ありませんので進めてください」というお墨付きをもらってから、ようやく私は本格的な売却手続きを再開することができました。
第5章:売却手続きの開始!書類集めと不動産会社との打ち合わせ
裁判所のゴーサインが出たため、私は不動産会社に「お待たせしました。成年後見人として売買契約を進めます」と連絡を入れました。
ここからは、私が「Aさんの代理人」として、不動産売却のすべての実務を取り仕切ることになります。
まずは「費用と最終入金額」の徹底確認
電話やメール、そして現地の不動産会社に直接出向いて打ち合わせを行いました。
素人が陥りがちな罠ですが、「家が1,000万円で売れたからといって、1,000万円が丸々入ってくるわけではない」という事実を、後見人として正確に把握しなければなりません。
売却額からは、以下の費用がごっそりと引かれます。
- 不動産会社に支払う「仲介手数料」(※売買価格の3%+6万円+税が上限)
- 司法書士に支払う「所有権移転登記費用」
- 契約書に貼る「印紙代」
- 未払いだった場合の「固定資産税の日割り精算」
私は不動産会社に「手数料などの諸経費をすべて引いた後、最終的にAさんの口座に『1円単位でいくら振り込まれるのか』の正確な計算書を出してください」と強く要求し、金額を確定させました。
膨大な必要書類の準備
売買契約に向けて、後見人である私は以下の書類をかき集める必要がありました。
- 登記事項証明書(成年後見): 私が法的な代理人(後見人)であることを証明する絶対のパスポート(発行から3ヶ月以内)。
- 私の印鑑証明書と実印: 契約書に押すための私自身の証明。
- 売却する不動産の「登記済権利証(権利書)」または「登記識別情報通知」: 実家のゴミの山から必死に探し出した、いわゆる「権利書」です。
- 固定資産税の納税通知書・評価証明書: 役所で取得します。
- ご本人(Aさん)の住民票: 登記されている住所と現在の住所の繋がりを証明するため。
もし「権利書が見つからない!」という場合でも、司法書士に「事前通知制度」や「本人確認情報の作成」を依頼することで売却は可能ですが、余計な費用(数万円〜十数万円)がかかってしまいます。
私はゴミ屋敷清掃の際に奇跡的に権利書を発見していたため、事なきを得ました。
一部の役所関係の書類については、平日動けない私に代わって不動産会社に取得を代行してもらい(費用は売却益から精算)、なんとか契約準備を整えることができました。
第6章:売却代金の受領先は絶対に「成年後見支援預金」へ
準備が整い、いよいよ買い主、不動産会社の担当者、司法書士、そして成年後見人である私が一堂に会して「売買契約の締結」と「決済(引き渡し)」を行います。(※この息の詰まる契約当日のリアルな様子は、次回のブログで詳しく説明します)。
ここで、成年後見人として絶対に間違えてはならない「お金の受け取り方」について解説しておきます。



無事に不動産が売却され、数千万円の代金が支払われる際。
以前の記事で苦労して作成した、家庭裁判所の許可がないと1円も引き出せない【成年後見支援預金(後見制度支援預金)】。
売却代金は、必ずこの強固なロックがかかった支援預金口座へ「直接」振り込んでもらうように、不動産会社と銀行に手配をしてください。
もし普通預金口座に数千万円が入ってしまうと、裁判所から「なぜ大金を生活口座に置いているのか。すぐに支援預金に移しなさい」と指導が入るだけでなく、一時的にせよ後見人であるあなたが「いつでも数千万円を引き出せてしまう状態」になり、横領の疑いをかけられる無用なリスクを背負うことになります。
第7章:よくある質問(成年後見人の不動産売却に関するFAQ)
Q. 親が認知症になった後でも、成年後見人をつければ実家を売却できますか?
A. 可能です。
ただし、親(ご本人)が「居住している」または「施設から戻る可能性がある」居住用不動産の場合は、家庭裁判所の「売却許可」が必須となります。裁判所は「本当に売る必要があるのか(資金が枯渇しているか等)」を厳格に審査するため、必ずしも許可が下りるとは限りません。
Q. 後見人が売却手続きをする際、司法書士や不動産会社の費用は誰が払うのですか?
A. すべてご本人(被後見人)の財産から支払われます。
後見人のポケットマネーから出す必要はありません。売却代金の中から諸経費を差し引き、残った金額をご本人の口座(成年後見支援預金など)に入金する形が一般的です。
Q. 遠方で売買契約の場に立ち会えない場合、郵送で契約できますか?
A. 基本的に「持ち回り契約」などで対応可能なケースもありますが、決済(司法書士による本人確認と登記手続き)には原則対面が必要です。
成年後見人が本当に権限を持っているか、司法書士が厳格に本人確認を行うためです。私は有給休暇を取得して、現地の不動産会社まで赴きました。
まとめ:不動産売却は「信頼できる大手」に相談すべき理由





いかがでしたでしょうか。
突然見つかった手紙から始まり、家庭裁判所への上申書の提出、書類の収集、そして支援預金への入金手配。
不動産の売買手続きはただでさえ複雑ですが、そこに「成年後見人」という重い責任と家庭裁判所のルールが加わることで、その手間と精神的ストレスは何倍にも膨れ上がります。
私は今回、ご本人Aさんの実家の売却という、自分でも経験したことのない大仕事を急遽引き受けることになりました。
今回、私が担当した物件は「Aさんが元気な頃にすでに依頼していた地元の不動産会社」が窓口でした。
買い主を見つけてくれたことには感謝していますが、正直に言います。
成年後見人が絡む特殊な売却にもかかわらず、その後に起こる税金の手続きや、予期せぬトラブルについての詳細な説明やフォローが一切なく、私は後日、とんでもない事態に巻き込まれて本当に困り果てることになります。
経験者からの忠告「家から近いだけで選んではいけない」
もし、このブログを読んでいただいている方で、現在「親の空き家の売却」や「実家の査定」をお考えの方がいるなら、私から強く忠告します。
必ず、コンプライアンスがしっかりしており、成年後見や相続の複雑な案件にも慣れている「大手の信頼できる不動産会社」や、「複数の優良企業を比較できる一括査定サービス」を利用してください。



業者の質が、あなたの今後の苦労を左右します。
さて、無事に上申書を提出し、買い主との売買契約に向けて走り出した私。
しかし次回、不動産売却を終えた後に、「想像もしていなかった事態(不測の税金トラブルや契約の罠)」が私を襲います。
売って終わりじゃない!成年後見人の対応はまだまだ続きます。次回のブログもぜひご覧ください。ではまた。
💡 【経験者からのアドバイス】売れない「長期空き家」や「訳あり物件」を抱える恐怖
今回のAさんの実家は、たまたま普通の不動産会社で買い主が見つかっていましたが、世の中には「築年数が古すぎる実家」「長年放置されたゴミ屋敷・空き家」「親族間で揉めている共有持分の家」など、普通の不動産屋では門前払いされる物件が山のようにあります。
成年後見人として最も恐ろしいのは、「売るに売れない不動産を抱え込み、本人のなけなしの預貯金から、誰も住まない家の固定資産税や火災保険料を永遠に払い続けること」です。これは本当に地獄です。
もし、親の家がこうした「不良債権」になりそうで少しでも不安があるなら、普通の不動産屋ではなく、【訳あり不動産専門の買取業者】に査定と相談をしておくことを強くお勧めします。
普通の不動産屋に断られた「空き家・訳あり物件」も現金化できる
長期間放置された空き家、再建築不可物件、事故物件、親族間の共有持分など……手放すのが難しい不動産は、専門の買取サービス「ワケガイ(ネクスウィル)」に任せるのが一番確実です。
自社で買取からリノベーションまで一貫して行うため、他社で断られた物件でもスピーディーに現金化してくれます。面倒な交渉もすべて丸投げできるため、まずはWEBから「無料査定」で現状を相談してみましょう。
※物件の所在地や状態を入力するだけで簡単に査定依頼が可能です。










