被後見人が亡くなったら後見人はどうする?死亡後の手続き・終了報告・引き継ぎを元・後見人が解説

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目次

はじめに:「Aさんが亡くなりました」その瞬間から後見人は何をすべきか

「Aさんが亡くなりました」

施設から連絡を受けた瞬間、私の頭に浮かんだのは「これからどうすればいいのか」という言葉でした。後見人として3年間動いてきた。財産管理も定期報告も、なんとかこなしてきた。でも「死亡後に何をするか」は誰も教えてくれませんでした。

施設のスタッフは「あとはよろしくお願いします」という空気を出していました。家庭裁判所からも、何か指示が来るわけではありません。後見人として関わり続けてきた責任感から「自分が動かなければ」という気持ちになりました。

しかし法律上、後見人の権限は被後見人が死亡した瞬間に終わっています。善意で動いた行為が、後から相続人とのトラブルになることもあります。

この記事では、被後見人が亡くなった後に後見人が「できること・できないこと」を民法の条文に基づいて整理し、終了報告・財産引き継ぎ・報酬申立ての実務手順を、3年間後見人を務めた経験から解説します。

この記事でわかること

  • 被後見人死亡と同時に後見人の権限が終わる法的根拠
  • 死後に後見人ができる行為(民法873条の2)とできない行為
  • やってしまいがちなNG行為と法的リスク
  • 家裁への終了報告の手順と必要書類
  • 報酬付与申立てのタイミングと注意点
  • 相続人への財産引き継ぎで迷いやすいポイント
  • 葬儀・施設解約・未払費用はどこまで後見人が関与できるか

くじら99

この記事を書いた人:くじら99(元 成年後見人)

遠方(300km以上)に住む認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され成年後見人を務めた経験を持つ会社員。

免責事項

当サイトは個人の成年後見業務の実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。個別具体的な手続きについては、弁護士・司法書士などの専門家や管轄の家庭裁判所等へご相談ください。

第1章:被後見人が死亡したら後見はどうなる?基本ルール

死亡と同時に後見が終了するタイミングと民法上の根拠

成年後見は、被後見人(本人)が死亡した瞬間に自動的に終了します。手続きは不要です。

「死亡届が受理された時点」でも「家裁に報告した時点」でもなく、「死亡した事実が発生した瞬間」に終了します。

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法的根拠は民法111条1項1号です。

「代理権は本人の死亡によって消滅する」と定められており、後見人の法定代理権も同様に消滅します。つまり、被後見人が亡くなった後に後見人として財産を動かすことは、原則として権限外の行為になります。

施設から「部屋の荷物をどうするか」と聞かれる場面があります。

くじら99

私も実際にそう聞かれました。

3年間関わってきた相手の部屋です。動きたい気持ちはありました。でも「それは相続人の判断です」と伝えるのが法律上正しい対応でした。

死亡後も後見人に残る義務と残らない義務

後見は終了しますが、後見人としての責任がすべてゼロになるわけではありません。残る義務と消える義務を整理します。

項目死亡後も残るか
財産管理の代理権消滅(即時)
身上保護の権限消滅(即時)
管理の計算・引き継ぎ義務残る(民法870条)
家庭裁判所への終了報告義務残る
緊急の保存行為(民法873条の2)限定的に残る
報酬付与申立ての権利残る(死後でも申立て可)

民法870条は「後見人は後見終了後、遅滞なく管理の計算をしなければならない」と定めています。財産の最終計算・相続人への引き継ぎ・家裁への報告は、後見が終了した後でも後見人の義務として残ります。

「後見が終わったから何もしなくていい」ではありません。

「権限はなくなったが、締めの作業が残っている」という状態が死亡後の後見人の立場です。

死後に問題になりやすい代理権・契約・法律行為の範囲

「本人が亡くなったから、あとは後見人がやってくれる」と施設や病院・管理会社から思われがちです。

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しかし法律上、後見人には権限がありません。

よく問題になる場面を具体的に挙げます。施設の退去手続きを後見人が進めようとするケース、本人の銀行口座から葬儀費用を引き出そうとするケース、本人名義の不動産を売却・賃貸しようとするケース、遺品整理や部屋の片付けを後見人が主導して進めてしまうケース——これらはすべて権限外です。

「善意でやったから大丈夫」は法律上通用しません。

権限なく財産を動かすと、相続人から損害賠償を求められるリスクがあります。「それは私の権限外です。相続人の方に連絡してください」と正直に伝えることが、死亡後の後見人として最も安全な対応です。


第2章:死亡後に後見人ができること・できないこと(民法873条の2)

法律上できる4つの行為

民法873条の2は、例外的に後見人が死後も行える事務を定めています。

2016年10月13日に施行された改正により新設された規定で、それまで実務上曖昧だった死後事務の範囲が明確化されました。

民法873条の2(原文):成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為 二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済 三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為。出典:e-Gov法令検索「民法第873条の2」/法務省「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」

4つの行為を具体的に整理します。

行為具体例家裁の許可
①特定財産の保存行為時効が迫った債権の中断・雨漏りの修繕不要
②弁済期到来済みの債務弁済施設費・医療費・家賃の支払い不要
③火葬・埋葬に関する契約火葬場・葬儀社との契約締結必要
④その他の保存に必要な行為相続財産の保全に必要な緊急対応必要
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重要な条件があります。

これらの行為ができるのは「相続人の意思に反することが明らかでない」場合に限り、かつ「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」の期間限定です。相続人がすぐに動ける状況なら、後見人は関与しない方が安全です。

やってしまいがちなNG行為と法的リスク

善意で動いてしまいがちですが、以下は権限外です。

NG行為なぜダメか
本人口座から葬儀費用を引き出す死亡後の口座は相続財産。引き出しは横領になりうる
遺品整理・部屋の片付けを進める相続財産の処分にあたる。相続放棄に影響する場合も
施設・病院・携帯の契約解除後見人には権限なし。相続人または保証人が行う
弁済期未到来の債務を支払う民法873条の2第2号の「弁済期到来済み」の要件を満たさない
相続人の同意なく財産を処分する全般相続人への損害賠償リスク
遺言書を勝手に開封する家裁での検認が必要(封印された遺言書の場合)
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特に注意が必要なのが「葬儀費用の立替払い」です。

施設から「葬儀費用として口座から引き出してほしい」と依頼されることがあります。気持ちは分かりますが、死亡後の預金口座は相続財産です。後見人が引き出す権限はありません。後から相続人から「勝手に動かした」と問題にされるリスクがあります。

また、弁済期が到来していない債務(翌月分の施設費等)を先払いしてしまうのも要注意です。民法873条の2第2号が認めているのは「弁済期が到来しているものに限る」と明記されています。

死後事務ができる期間と終了するタイミング

民法873条の2に基づく死後事務ができるのは「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」です。つまり相続人が動ける状態になったら、後見人の死後事務権限も終わります。

相続人に連絡が取れ、財産の引き継ぎが完了した段階で後見人の関与は終了です。それ以降に何か動く必要が出てきても、それは相続人の問題であり後見人の役割ではありません。

相続人がいない・連絡が取れない場合の対応

相続人が不在・所在不明の場合でも、後見人の権限が拡張されるわけではありません。対応の選択肢は以下の通りです。

まず戸籍を辿って相続人を特定する調査を行います。

それでも相続人が見つからない・全員が相続放棄した場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立てを行います。

清算人が選任されれば、その方に財産を引き渡します。

いずれにしても、後見人がいつまでも財産を持ち続けることはできません。

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早めに家裁に状況を報告して指示を仰いでください。

相続人全員が相続放棄し、相続財産清算人の選任もされない場合、最終的に財産は国庫に帰属します(民法959条)。


第3章:死亡後の手続きを時系列で解説

死亡連絡後に後見人が最初にやること

被後見人の死亡連絡を受けた直後からやるべき事務を時系列で整理します。

  1. 死亡の事実を確認する(死亡診断書等で確認)
  2. 相続人を特定し連絡する(戸籍を辿って法定相続人を確認)
  3. 家庭裁判所に死亡の事実を報告する(まず電話で第一報)
  4. 管理財産の現状を保全する(通帳・書類・鍵を安全に保管)
  5. 弁済期が到来している未払債務を確認する(施設費・医療費等)
  6. 相続人への引き継ぎのスケジュールを確認する

最初のステップで迷いやすいのが「相続人への連絡」です。

後見人として本人の戸籍謄本を保管していれば、そこから相続人を特定できます。相続人が複数いる場合は、全員に連絡してください。特定の相続人だけに連絡して財産を引き渡すと、後から他の相続人から問題にされるリスクがあります。

施設費が未払いだから後見人が払っておこうという行動は、民法873条の2第2号の範囲内であれば可能です。

ただし相続人がいてすぐに対応できる状況なら、相続人に任せる方が安全です。後見人が動けるのは「相続人が管理できるに至るまで」の期間限定であることを常に意識してください。

家庭裁判所への終了報告と提出書類

後見終了後、後見人は家庭裁判所に終了の報告をする義務があります(民法870条)。

管轄の家裁から送付される書式に従って提出します。

書式の取り寄せは電話での連絡が最もスムーズです。

提出書類内容備考
後見事務終了報告書後見期間中の事務の総括家裁の書式を使用
最終の財産目録死亡時点の全財産の一覧通帳コピーと1円単位で突合
最終の収支状況報告書最後の報告期間の収支明細領収書と番号突合
預貯金通帳の写し報告期間の全入出金直前に記帳してから全ページコピー
引き継ぎの確認書類相続人への引き継ぎを証明するもの相続人のサインをもらう

提出のタイミングは家裁によって異なりますが、死亡後2〜3ヶ月以内を目安に動き始めてください。

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書式が最新版かどうかも確認が必要です。

2025年4月に全国統一書式が改訂されており、古い書式を使うと差し戻しになる可能性があります。

終了報告書は「この後見人が最後まで適切に仕事をしたか」を家裁が確認するための書類です。死亡直前の期間であっても、1円単位の収支の正確さは変わりません。月の途中で亡くなった場合、その月分の施設費・医療費をどう処理するかは家裁に確認した上で行うことをすすめます。

報酬付与申立てのタイミング(死亡時ならではの注意点)

報酬付与申立ては終了報告書と同時に提出するのが原則です。

死亡による後見終了の場合、通常の定期報告時の申立てと異なる点があります。

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対象期間は「前回の報酬付与から死亡日まで」です。

死亡後に行った死後事務(民法873条の2の範囲内のもの)も事情説明書に記載できます。付加報酬(不動産売却・廃車等の特別な業務)も漏れなく記載してください。

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相続人から報酬額への異議が出るケースがあります。

相続財産が減ることへの不満から「そんなに報酬をもらう必要があるのか」と言われることもあります。事情説明書に「いつ・何を・なぜ行ったか」を具体的に記載することで、不要なトラブルを防げます。

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報酬は本人の財産(相続財産)から支払われます。

報酬付与の審判書が出る前に相続財産を相続人に引き渡してしまうと、報酬の回収が困難になることがあります。審判書の受領と財産の引き渡しのタイミングを家裁に確認してから動いてください。

財産の最終計算と相続人への引き継ぎ

後見終了後の財産引き継ぎは民法870条・871条に基づく義務です。相続人が確定したら、管理していた財産を引き渡します。

  • 全口座の残高を確認し最終の財産目録を作成する
  • 通帳・印鑑・権利証・保険証券・鍵を揃える
  • 領収書・報告書・家裁との往復書類のファイル一式をまとめる
  • 相続人に引き継ぎ内容を説明し受領のサインをもらう
  • 引き継ぎ完了後、家裁に完了を報告する

引き継ぎのサインをもらうのは「後から言った言わないを防ぐ」ためです。

私が実際に行った際は、引き継ぎ書を自分で作成し、相続人にサインをもらってから財産を渡しました。後から「足りない」「勝手に使っていたのでは」と言われることへの備えです。


第4章:終了報告の実務(元・後見人の実体験から)

通帳・領収書・資料の整理方法

終了報告の実務で最も時間がかかるのが、通帳と領収書の整理です。通常の定期報告と基本的には同じ手順ですが、死亡後の支出がある場合は分けて整理することが重要です。

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まず通帳を死亡日直後まで記帳します。

その後、死亡日以降の入出金と死亡日以前の入出金を明確に分けて整理します。死亡後に行った支出(民法873条の2に基づくもの)は「死後事務として行った支出」と明記して、通常の後見事務期間の収支と分けて記載してください。

領収書は通帳と番号突合する手順も通常の定期報告と同じです。ただし死亡後の期間については、通常の後見事務の領収書と明確に区分けして整理してください。書記官が確認しやすい形にすることが、追加質問を減らすポイントです。

相続人への引き継ぎ分(現金・通帳残高)は、引き継ぎ書に金額を明記して、通帳コピーと照合できるようにしておきます。

死後事務として行ったことの記録方法

民法873条の2に基づいて死後事務を行った場合は、その記録を残しておくことが重要です。

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記録しておくべき内容は以下の通りです。

いつ・何の目的で・何をしたか、その行為が民法873条の2のどの号に該当するか、家裁の許可が必要だった場合はその許可を得たかどうか、支出が伴う場合はその金額と領収書、相続人への連絡の有無と相続人の反応——これらを日付を入れてメモしておくだけで、終了報告書の作成が格段に楽になります。

「死後事務をやった」という記録がないと、後から相続人から「その支出は何だ」と問われたときに説明できなくなります。


第5章:葬儀・施設解約・未払費用——後見人はどこまで関与できるか

葬儀・火葬・埋葬は後見人の業務か

民法873条の2第3号は「死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結」を後見人ができる死後事務として認めています。しかし、これには家庭裁判所の許可が必要です。許可なしに動くとこの行為自体が無効になる可能性があります。

状況後見人の対応
相続人・親族がいて対応できる関与しない。相続人に任せる
相続人が遠方・連絡が取れない家裁の許可を得た上で火葬契約のみ可
相続人が全員相続放棄家裁に相談・相続財産清算人の選任を検討
親族が誰もいない市区町村長が火葬・埋葬を行う(墓地埋葬法9条)

私のケースでは、施設から「葬儀はどうしますか」と聞かれました。

相続人に連絡が取れたため、私は「相続人の方にご判断いただいてください」とお伝えして、葬儀への関与はしませんでした。後見人として葬儀社との契約を結ぶ必要はなかったからです。

法律上できるとされていても、相続人が対応できる状況なら後見人は関与しない方が安全です。余計なことをするほどトラブルのリスクが上がります。

施設・病院・賃貸・携帯の契約解除:後見人がやっていいか

くじら99

これは後見人にはできません。

本人死亡により契約は自動的に終了または相続人に引き継がれます。解除手続きは相続人または連帯保証人が行います。

契約の種類死亡後の扱い後見人の関与
施設入所契約死亡で終了。退去手続きは相続人不可
病院入院契約死亡で終了。精算は相続人不可
賃貸借契約相続人に承継。解約は相続人不可
携帯電話契約相続人が解約手続き不可
公共料金相続人が名義変更・解約不可

施設から「退去の手続きをお願いします」と後見人に依頼が来ることがあります。

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これは善意の依頼ですが、断らなければなりません。

「後見人の権限は終了しています。相続人の方にご連絡ください」と伝えることが正しい対応です。

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断りにくい空気になることはよく分かります。

3年間関わってきた施設のスタッフに「それはできません」と言うのは心苦しいです。でも権限外のことをやってしまった結果、相続人とのトラブルになる方がずっと大変です。

医療費・介護費・日用品代など未払費用の処理

弁済期が到来している未払費用は、民法873条の2第2号により後見人が相続財産から支払うことができます。ただし以下の条件を全て満たす必要があります。

支払期限(弁済期)が死亡日以前に到来していること、相続人の意思に反することが明らかでないこと、相続人がまだ財産を管理できる状況にないこと——この3つが揃った場合に限り、後見人は相続財産から支払うことができます。

死亡後に発生した費用は原則支払えません。

例えば死亡日以降の施設費用(日割り計算分等)は、相続財産からの支払い対象かどうか判断が難しいケースがあります。迷った場合は家裁に確認してから支払ってください。確認なしに動くと、後から相続人から「余計なことをした」と言われるリスクがあります。


第6章:相続人への引き継ぎで迷いやすいポイント

相続人が1人の場合と複数いる場合の対応の違い

相続人が1人の場合はシンプルです。その方に財産を引き渡し、受領のサインをもらえば完了です。

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複数の相続人がいる場合は注意が必要です。

遺産分割協議が完了していないうちに特定の相続人に財産を渡すと、他の相続人から問題にされる可能性があります。「長男に渡しておいたら、次男から全額返せと言われた」というトラブルは実際に起きています。

相続人が複数いる場合の原則は「全員の合意が取れるまで財産は動かさない」です。全員への連絡と確認が取れてから引き渡してください。どうしても一人では難しい状況なら、弁護士・司法書士に相談することをすすめます。

遺言の有無で変わる引き継ぎ・遺産分割前に動いてはいけないこと

遺言書が存在する場合、財産の分配は遺言の内容に従います。後見人は遺言の内容を勝手に実現させることはできません(遺言執行者の役割)。

遺言書を発見した場合の後見人の対応として、封印された遺言書は勝手に開封してはいけません。

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家裁での検認が必要です。

遺言書の存在を相続人に伝え、遺言執行者が指定されていればその方に連絡します。

遺産分割が完了していない状態で相続財産を処分・消費・持ち出しすると、相続人から損害賠償を求められるリスクがあります。「片付けついでに不要なものを捨てた」という善意の行動が後からトラブルになります。動かす前に必ず相続人に確認してください。

不動産・預貯金・鍵・書類の渡し方

財産の種類引き継ぎ方法注意点
預貯金通帳・印鑑を相続人に渡す残高を確認して引き継ぎ書を作成
現金封筒に入れて金額を明記しサインをもらう金額の相違があとで問題になりやすい
不動産の鍵相続人に直接手渡し鍵の本数を記録する
権利証・登記識別情報相続人に直接手渡し受領書を作成する
後見関係書類一式ファイルにまとめて引き渡す定期報告書・領収書・指示書等を含む
保険証券相続人に手渡し解約・受取り手続きは相続人が行う

引き継ぎで最も大切なのは「記録を残すこと」です。口頭での引き渡しは絶対に避けてください。後から「受け取っていない」「金額が違う」と言われる可能性があります。

私が実際に行った際は自分で引き継ぎ書を作成しました。財産の種類・数量・金額を一覧にして、相続人にサインをもらいました。

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面倒に思えますが、この書類が後から自分を守ってくれます。


第7章:よくあるトラブルと相談先

相続人が見つからない・引き継ぎを拒否された場合

相続人全員が相続放棄した場合、または相続人が見つからない場合は家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立てを行います。申立てができるのは利害関係人(後見人もこれに該当します)または検察官です。

清算人が選任されれば、その方に財産を引き渡します。清算人は弁護士等が選任され、相続財産の管理・清算・国庫帰属の手続きを行います。

引き継ぎを拒否された場合も、後見人が財産を持ち続けることはできません。

「相続人が受け取らないから後見人が管理し続ける」という状態は法律上認められません。こうした状況になったら早めに家裁に相談して指示を仰いでください。

財産が少ない・報告が不十分な場合のトラブル

財産が少なくても終了報告の義務は変わりません。

残高がほぼゼロであっても、最終の財産目録と収支報告書の提出は必要です。「残高がないので報告しなくていい」という判断はNGです。

報告が不十分な場合、家裁から追加資料の提出を求められます。それだけならまだいいですが、最悪の場合、後見人の不正を疑われるリスクがあります。特に財産が大幅に減っている場合は、その理由を詳細に説明する書類を添付してください。

「全部正直に・1円単位で」が鉄則です。合わない金額が出た場合は無理にごまかさず「原因不明の差異(自己負担)」として正直に記載して家裁の指示を仰いでください。

相続人から後見業務に異議を申し立てられた場合

相続人から「後見人の業務内容が不適切だった」「財産を勝手に使った」という申し立てが来ることがあります。

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これは後見人にとって最も精神的に辛い状況です。

こうした状況になったら、まず全ての記録(定期報告書・領収書・通帳・家裁との往復書類)を整理してください。

適切な業務を行っていたという証拠が揃っていれば、後見人は守られます。

記録が不十分な場合や法的な対応が必要な場合は弁護士に相談してください。後見業務に詳しい弁護士に早めに相談することで、不要な消耗を避けられます。

家庭裁判所・弁護士・司法書士への相談のタイミング

以下の状況では早めに専門家を頼ってください。

  • 相続人が見つからない・全員が放棄した
  • 相続人間でトラブルが起きている
  • 財産の引き継ぎを拒否された
  • 死後事務の範囲で判断に迷う場面が出てきた
  • 相続人から後見業務内容に異議を申し立てられた
  • 終了報告の書き方で迷っている

相談先は家庭裁判所(担当書記官)、弁護士(相続・後見専門)、司法書士が中心です。

地域の法テラスでは無料法律相談も利用できます(電話番号:0570-078374、平日9時〜21時、土曜9時〜17時)。

後見業務の終了は「やっと終わった」ではなく「締めの作業がある」です。

でも締めの作業さえ終われば、本当の意味で後見人としての役目は完了します。最後まで記録を残して、正直に報告することが、後見人として最も大切なことです。


経験者からの重要なお知らせ

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よくある質問

Q. 後見人は被後見人の葬儀費用を立て替えていいですか?

A. 原則として立て替えるべきではありません。葬儀費用は相続財産から支出するものであり、後見人が権限なく立て替えると後から精算できなくなる可能性があります。火葬・埋葬に関する契約の締結は民法873条の2第3号で認められていますが、家裁の許可が必要です。相続人が対応できる状況なら、後見人は関与しないのが安全です。

Q. 死亡後に後見人が財産を使うとどうなりますか?

A. 権限外の財産処分として、相続人から損害賠償を求められるリスクがあります。死亡後に後見人が動かせる財産は民法873条の2の範囲(弁済期到来済みの債務弁済・保存行為等)に限られます。それ以外は触らないことが原則です。

Q. 終了報告はいつまでに提出する必要がありますか?

A. 法律上の期限は定められていませんが「遅滞なく」が原則です(民法870条)。実務上は死亡後2〜3ヶ月以内を目安に家裁に連絡し、書式を取り寄せて準備を始めてください。

Q. 相続人が誰もいない場合はどうなりますか?

A. 家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申立てます。選任された清算人に財産を引き渡します。最終的に相続人も清算人もいない財産は国庫に帰属します(民法959条)。

Q. 報酬付与申立ては死後でもできますか?

A. できます。終了報告書と同時に提出するのが一般的です。死亡後に行った死後事務(民法873条の2の範囲内のもの)も事情説明書に記載して申立てることができます。

Q. 後見終了後の相続手続きは誰がやりますか?

A. 相続人です。後見人には相続手続きを進める権限はありません。相続人が戸籍収集・名義変更・相続税申告を行います。相続手続きを専門家に任せたい場合は相続アシストへの無料相談をご利用ください。


まとめ:後見終了後の「締め」を丁寧にやり切ることが最後の仕事

被後見人が亡くなった後の後見人の仕事は「終わり」ではなく「締め」です。

権限は消えましたが、管理の計算・引き継ぎ・終了報告という最後の義務が残っています。

この締めの作業を丁寧にやり切ることが、3年間(あるいはそれ以上)後見人として働いてきた自分への最後の責任です。

「民法873条の2の範囲内でしか動けない」という制約は窮屈に感じるかもしれません。でもこの制約があるおかげで、後見人は相続人とのトラブルから守られます。「私にはその権限がありません」という言葉が、後見人を守る盾になります。

後見終了後の相続手続きは相続人の仕事です。

戸籍収集・名義変更・相続税申告の期限は10ヶ月。後見で消耗した後にこれを自力でこなすのは本当に大変です。相続人として次のフェーズに入る方には、早めの専門家への相談をすすめます。

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くじら99

くじら99(元・成年後見人)

300km離れた認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され、成年後見人を3年間務めました。被後見人の死亡後に終了報告・財産引き継ぎの実務を経験した立場から、「死亡後に何をすればいいか」で迷う後見人の方に向けてこの記事を書きました。家庭裁判所より選任 / 成年後見人を3年間 / 死亡後の終了報告・引き継ぎを経験 / 遠距離300km・就業中

※当サイトは個人の実体験に基づく情報提供であり、法的助言ではありません。死後事務の範囲・手続きの詳細は管轄の家庭裁判所・専門家にご確認ください。出典:民法第873条の2/民法第870条・871条/法務省「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(2016年10月13日施行)

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