こんにちわ。元・成年後見人のくじら99(@9jira99)です。
家庭裁判所から「成年後見人に選任する」という審判書が届き、無事に特別養護老人ホームへの入所も決まった頃。
「これでようやく落ち着く…」と思ったのも束の間、成年後見人には「本人の全財産を完全に把握し、1円の狂いもなく管理下におく」という、実務において最も過酷で、最も有給休暇を消費する最大のミッションが待ち受けています。
それが、金融機関(銀行・ゆうちょ・信用金庫など)をめぐる「口座解約と資金集約(統廃合)のラリー」です。
ネットの情報ではよく「口座の名義変更をする」と書かれていますが、実務はそんなに甘いものではありません。
あちこちに散らばった口座をそのまま名義変更して維持すれば、毎年の定期報告で発狂することになります。
あとあと、家庭裁判所や他の親族から「不透明な点がある」と突っ込まれて大問題にならないよう、きっちりと対応するための鉄則。
この記事では、現役世代が働きながら直面する「銀行窓口でのリアルな悪戦苦闘」から、信用金庫を活用したスマートな財産管理の仕組み、そして後半(次回の記事)では誰もが気になる「成年後見人の報酬額と申し立ての裏側」まで、私の実体験をベースに徹底解説します。

この記事を書いた人:くじら99(元 成年後見人)
遠方(300km以上)に住む認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され成年後見人を務めた経験を持つ会社員。
免責事項
当サイトは個人の成年後見業務の実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。個別具体的な手続きについては、弁護士・司法書士などの専門家や管轄の家庭裁判所等へご相談ください。
目次
第1章:すべての土台。信用金庫で「後見制度支援預金」を作成する
家庭裁判所から後見人の審判書が届き、法務局から「登記事項証明書」を取得したら、私が最初に向かったのは地元の「信用金庫」でした。
他の銀行を回る前に、まずは財産を受け止めるための「強固な器(うつわ)」を作らなければならないからです。
1. 「後見制度支援預金」という最強の防衛システム
最高裁判所および家庭裁判所は、家族による財産の横領やトラブルを防ぐため、一定以上の現金資産がある場合、この「後見制度支援預金(支援預金)」の利用を強く推奨(事実上の義務化)しています。
これは非常に特殊な口座で、「家庭裁判所の書面による指示(指示書)がなければ、1円たりともお金を出し入れできない」という仕組みになっています。
【引用:最高裁判所「後見制度支援信託・後見制度支援預金の仕組み」】
被後見人の財産のうち、日常的な支払いに使用する分(適切な額)以外の「通常使用しないまとまった金銭」を別口座に隔離し、適切かつ安全に管理するための制度です。口座の払戻しや解約には、家庭裁判所が発行する指示書が必要となります。
私はベースとなる信用金庫において、この「後見制度支援預金」の口座をまず開設しました。
くじら99実際には少額でもお金が必要なので、その点もご注意ください
2. 日常の支払いを担う「通常の口座」も同時に作成
しかし、すべての現金を支援預金に入れてしまうと、毎月の特別養護老人ホーム(特養)の施設代や、医療費の引き落としができなくなってしまいます。
そこで、同じ信用金庫の中に、もう一つ「日常用の通常口座(後見人が自由に管理できる口座)」を同時に作成しました。
- 後見制度支援預金: 普段は絶対に触らない(触れない)財産のコアを保管。
- 日常用の口座(通常預金): 施設代、医療費、光熱費などの支払いや、年金の受け取りをすべてここに集約。
この2つの器を信用金庫にカチッと作り上げることこそが、その後に続く「銀行手続きラリー」のすべてのスタートラインとなります。
🗂️ 【窓口持参】後見人の銀行手続き・必須書類チェックリスト
窓口での「書類不備による出直し(有休の無駄遣い)」を防ぐためのセットです。事前にチェックを入れて確認してから出発してください。
※金融機関(特にゆうちょ銀行など)によっては、独自の追加書類や事前審査を求められる場合があります。
第2章:平日日中の絶望。各金融機関をめぐる「全額移動と口座解約」のラリー


器ができたら、いよいよ本人の「隠された(散らばった)財産」を回収するフェーズに移ります。
実家の片付けなどで見つかった、大手メガバンク、地方銀行、ゆうちょ銀行などの古い通帳の束をカバンに詰め込み、私は平日の日中に有休を取って、各金融機関の窓口へと向かいました。
1. 名義変更ではなく「全額送金&一発解約」という選択
ここで多くの初心者後見人がやりがちなのが、それぞれの銀行で「口座の名義を後見人名義に変えて、そのまま維持する」というミスです。
これをやると、管理する通帳が4つも5つも存在し続けることになり、毎年の定期報告(収支の突合)が発狂レベルの難易度になります。



私の目的は、名義変更ではありません。
2. 窓口での「1件2時間」という過酷な拘束時間
銀行の窓口担当者(テラー)にとって、「成年後見人による他行口座の解約・全額送金」は、1年に数回あるかないかの極めてイレギュラーな業務です。
私が窓口で登記事項証明書や審判書、大量の書類を提出すると、窓口の空気は一瞬でピリつきます。
担当者は裏に引っ込んで分厚いマニュアルを読み始め、さらには銀行の「本部(法務部)」へFAXを送り、法的な不備がないかを念入りに確認し始めます。
- 「この裁判所の審判書は原本か?」
- 「後見人の本人確認書類と実印の照合」
- 「古いお届け印が紛失している場合の解約手続きのプロセス」
手続きが1件完了するまでに、短くても1時間半、手際が悪いと2時間以上の時間が平気で溶けていきます。
「午後休を使って3件回ろう」と考えていても、2件目の窓口に滑り込んだ時には、無情にも15時のシャッターが下ろされる。この書類ラリーは、サラリーマン後見人にとって精神と体力をガリガリと削る過酷な戦いでした。



成年後見業務に、ハンコは必須です
第3章:なぜ面倒でもすべての口座を解約し「統廃合」すべきなのか?
平日に仕事を休み、何時間も待たされ、時には遠方の地方銀行まで足を運んで口座を解約する。
「残高が数万円、数千円しかない口座なら、わざわざ解約せずに放置しておいてもいいのではないか?」と思うかもしれません。
しかし、「使う予定のない他行の口座は、意地でもすべて解約し、ベースの信用金庫へ統廃合しなければならない」明確な理由があります。
1. 金融財産を「一箇所」にまとめて分かりやすくする重要性
お金が色々な銀行に散らばっていると、どこから年金が入り、どこから施設代が引き落とされ、どこの口座間で資金移動があったのかが、自分でも分からなくなってしまいます。
財産を信用金庫(支援預金と日常口座)の「1つの金融機関」に完全に一本化することで、お金の流れが一本のきれいな川のようになり、誰が見ても(家庭裁判所の審査官が見ても)一目で把握できるようになります。
2. あとあと問題(裁判所からの指摘や親族トラブル)にしないための絶対防衛
成年後見人は、年に1回、家庭裁判所にすべての通帳のコピーと領収書を提出する義務(定期報告)があります。もし口座が何個も残っていると、1円の計算ズレや使途不明金が発生する確率が跳ね上がります。
さらに、本人が亡くなって後見が終了した(あるいは相続が発生した)後、他の親戚から「お前、後見人の立場を利用して親の金を使い込んだんじゃないか?」と、あらぬ疑いをかけられるトラブルは後を絶ちません。
「すべての隠し口座を解約し、この信用金庫の口座に全額集約しました。日々の支出はここからしか出していません」
という完璧なエビデンスを揃えておくこと。
これこそが、あとあと問題にならないように自分自身を法律的に守るための、きっちりとした対応なのです。
第4章:実務の黄金サイクル。「日常用口座」と「支援預金」の連動


すべての口座を信用金庫に集約した後の、日々の「お金の回し方(運用ルール)」についても、私のリアルな実務をご紹介します。
1. 日常の支払いは「日常用口座」からスマートに
特別養護老人ホーム(特養)の毎月の利用料、受診した医療費、空き家の維持にかかる光熱費などは、すべて新設した信用金庫の「日常用口座」から自動引き落とし(または振込)に設定しました。
これにより、日々の私の実務は「この日常用口座の通帳を定期的にATMで記帳するだけ」となり、事務負担は劇的に軽減されました。
2. 資金が不足したら「家庭裁判所の指示」で補填
もし、年金収入よりも施設代や医療費の支出が多く、日常用口座の残高が減ってきた場合はどうするのか?
私は家庭裁判所に対して、「日常用口座の残高が少なくなってきたため、支援預金から〇〇万円を日常用口座へ移したい」という上申書を提出します。裁判所が「妥当である」と判断すれば、裁判所から信用金庫宛に「指示書」が発行され、支援預金から日常用口座へ安全にお金が移動します。
有給休暇を限界まで使い果たし、銀行窓口での凄絶な書類戦術を乗り越え、ようやく完璧な「財産管理の要塞」を築き上げた後見人。
これほどの重労働と精神的プレッシャーを働きながらこなした私に対し、家庭裁判所は一体いくらの「報酬」を認めてくれたのでしょうか?
第5章:成年後見人の報酬は誰が、どうやって決めるのか?


平日の有給休暇を使い果たし、銀行の窓口で何時間も耐え抜き、やっとの思いで構築した財産管理体制。これほどの労力をかけているのだから、さぞかし正当な対価がもらえるのだろう……と思いたいところですが、現実はそう甘くありません。
大前提として、成年後見人の報酬は「当事者同士の話し合い」や「時給計算」で決まるものではありません。
1. 専門家(弁護士・司法書士)の報酬相場
親族ではなく、第三者である専門家が成年後見人に選任された場合、本人の財産から毎月「基本報酬」が支払われます。この金額は、本人が持っている「財産の総額」によって家庭裁判所の基準で機械的に決まります。
【引用:最高裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」より】
- 管理財産額が1,000万円以下の場合: 月額 2万円
- 管理財産額が1,000万円超〜5,000万円以下の場合: 月額 3万円〜4万円
- 管理財産額が5,000万円超の場合: 月額 5万円〜6万円
※上記は基本報酬のめやすであり、特別な事務(不動産の売却、遺産分割調停など)を行った場合は、事案に応じて「付加報酬」が加算されます。
つまり、親の貯金が3,000万円ある場合、専門家に毎月約3〜4万円(年間36〜48万円)の報酬が、親が亡くなるまでずっと引かれ続けることになります。10年続けば約400万円です。
2. 家族(親族)が後見人になった場合も報酬はもらえる?
「親のお金の管理なんだから、身内がタダでやるのが当たり前」という風潮は世間には根強くあります。
しかし、ここまでお読みいただいたあなたならお分かりの通り、1円のズレも許されないエクセル管理、領収書の山との格闘、平日日中の役所・銀行ラリーなど、後見人の実務は「ボランティアで片手間にできるレベル」を遥かに超えています。
自分の生活や仕事(有休)を犠牲にして行う労力に対する正当な対価として、親族であっても報酬を請求する権利は法律(民法第862条)でしっかりと認められています。


第6章:親族後見人の「報酬付与申立て」の実務と心の葛藤
では、家族が後見人として報酬を受け取るためには、どうすればよいのでしょうか。
通帳から勝手に「今月の作業代」として引き出すと、業務上横領として一発で処罰(最悪の場合は逮捕・解任)されます。
1. 報酬付与申立ての手続きステップ
- 定期報告書の作成時に申し立てる: 毎年の財産目録や通帳のコピーを提出する際、一緒に「報酬付与申立書」という書類を提出します。
- 「後見事務の困難性」をアピールする: 申立書には、「この1年間でどのような特別な苦労があったか」を記載する欄(事情説明書)があります。例えば、「未知の口座を発見し、遠方の銀行まで統廃合の手続きに行った」「施設で事故があり、何度も急行して対応した」「実家の売却手続きに奔走した」など、具体的な労力を記載します。
- 裁判所の「審判」を待つ: 書類提出後、約1〜2ヶ月後に家庭裁判所から「報酬付与の審判書」という決定通知が自宅に郵送されてきます。
- 本人の口座から引き出す: 「〇〇円を本人の財産から後見人に与える」という審判書が届いて初めて、合法的に本人の口座から自分(後見人)の口座へお金を移すことができます。
2. 身内からお金をもらうことへの「葛藤」
手続き自体は書類を数枚追加するだけですが、親族後見人にとって一番のハードルは「自分の親や親族の財産から、自分への報酬を請求する」という心理的抵抗感です。
他の親戚から「親の金を目当てにしているのか」と陰口を叩かれることを恐れ、あえて無報酬で耐え続けている親族後見人は少なくありません。
しかし、裁判所が第三者の目線で「適正な金額」を決定してくれるため、私は堂々と申立てを行うべきだと考えています。
第7章:本人の財産が枯渇!「報酬が払えない」場合の公的救済策
長引く介護や施設費用により、本人の財産(貯金)が数万円レベルまで底をついてしまった場合、専門家への報酬はどうなるのでしょうか?
救済措置:成年後見制度利用支援事業
本人の財産から報酬が払えなくなった場合、専門家が「タダ働き」をしてくれるわけではありません。また、家族が身銭を切って専門家へ報酬を支払う義務もありません。
【引用:厚生労働省「成年後見制度利用支援事業」】
成年後見制度の利用が必要であるにもかかわらず、費用の負担が困難な低所得者(生活保護受給者など)に対し、成年後見人等への報酬の全部または一部を市町村が助成する制度です。
本人の預貯金が基準額(自治体により異なりますが、概ね数十万円以下)を下回った場合、役所にこの助成制度を申請することで、自治体から専門家の報酬が支払われるようになります。
「お金がなくなったら専門家に辞められて放置される」ということはありませんので、その点はご安心ください。
第8章:成年後見人の報酬に関する「よくある質問(FAQ)」
検索エンジン等でよく調べられている、後見人の報酬にまつわる疑問にお答えします。
Q1. 専門家の報酬が高すぎるので、途中で解任(クビに)できますか?
A. 原則として、単なる「報酬が高い・気に入らない」という理由での解任はできません。
家庭裁判所が解任を認めるのは、後見人が本人の財産を横領した、著しく職務を怠ったなど、明確な「不正行為や適格性の欠如」があった場合のみです。制度を利用する前に、専門家がつくリスク(生涯のランニングコスト)を十分に理解しておく必要があります。
Q2. 家族(親族後見人)がもらえる報酬の相場はいくらですか?
A. 専門家と同額、またはやや低く設定されることが多いです。
一般的に、特別な事務がない平穏な年であれば、月額換算で1万〜2万円程度(年間10万〜20万円)で審判が下りるケースが多いようです。ただし、これも本人の資産額や、その年の事務の難易度(銀行の統廃合や不動産売却など)によって裁判官が個別に判断します。
Q3. 報酬付与の「申立て」を忘れてしまった場合、さかのぼって請求できますか?
A. はい、過去にさかのぼって請求することは可能です。
ただし、数年分をまとめて請求すると金額が大きくなり、本人の生活費を圧迫する可能性があるため、毎年の定期報告のタイミングでこまめに申し立てを行うのが鉄則です。
おわりに:将来の「お金の揉め事」を防ぐために


銀行での血の滲むような口座変更手続きから、毎年やってくる報酬付与の申立てまで。
成年後見人の実務は、家族間のトラブルや制度への不満を生みやすい非常にデリケートで過酷な問題です。
親族が自己犠牲で無報酬を貫いて疲弊するケースもあれば、予想外に専門家が選任されて毎月の固定費(報酬)に頭を抱えるケースもあります。すでに認知症が進行し、成年後見制度を利用せざるを得ない場合は、今回の「報酬付与申立て」や「助成制度」の仕組みを正しく理解し、堂々と制度を活用してください。
一方で、「もし親がまだ元気で、意思能力がある状態」であれば、成年後見制度を使わずに財産管理を家族に託す「家族信託」という強力な選択肢があります。
家族信託であれば、銀行の凍結に怯えることも、家庭裁判所への報告や毎月の専門家への高額な報酬を回避することも可能です。
認知症による資産凍結を防ぐために
家族信託という新しい備え
ご存知ですか?
親が認知症になると、預金の引き出しや自宅の売却などができなくなり、まさに「資産が凍結」されてしまいます。
将来の介護や医療のために備えていた財産が、使えなくなるリスクがあるのです。
そんな事態を防ぐ手段として、近年注目されているのが「家族信託」です。
家族信託は、親が元気なうちに家族に財産管理を託すことで、認知症による凍結を回避できる法的な仕組みです。
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「親の介護から死後事務まで、これからどんなお金と手続きがかかるのか」の全体像については、以下の完全ロードマップ記事にすべてまとめました。手遅れになる前に、必ず目を通しておいてください。


「当サイトは実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。金融機関の最新の規定や、報酬付与の具体的な審判基準については、各金融機関、管轄の家庭裁判所、または弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください」






