担当している被後見人が亡くなった。ところが、財産を引き継ぐ相続人が見当たらない。通帳も、家も、まだ手元にある。これを誰に渡せばよいのか、自分はどこまで動いてよいのか。そんな状況の後見人の方へ。
私は、認知症の叔父の成年後見人を会社員のまま3年務めました。叔父は生涯独身で、子どもはいません。叔父が特養で亡くなったあと、葬儀は親族が中心になり、死亡届なども親族として出しました。ただ、相続人がいない状況に当たったことはなく、家庭裁判所に清算人の申立てをした経験もありません。この記事は、民法と裁判所の案内をもとにした制度の解説です。後見人の目線で、どこまで自分で進めて、どこで家庭裁判所に預けるかの判断の基準を添えます。
結論:「いない」と決める前に確かめ、いなければ清算人に引き継ぐ
- まず、戸籍で本当に相続人がいないのかを確かめます。相続放棄で、結果として誰もいなくなるケースもあります
- 後見人が死亡後にできることは、民法873条の2に定められた範囲に限られます。それを超えて財産を動かさないのが基本です
- 相続人が明らかでないときは、家庭裁判所が相続財産清算人を選びます。後見人が持っている財産は、その人に引き継ぐ形になります
まず確かめる:本当に相続人がいないのか
「身寄りがない」と聞いていても、戸籍をたどると親族が見つかることがあります。逆に、相続人はいても全員が相続放棄をして、結果として誰も相続しない場合も、「相続人のあることが明らかでないとき」として同じ手続きになります(裁判所「相続財産清算人の選任」、2026年10月28日確認)。
裁判所の案内では、申立てに付ける書類として、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本、父母の戸籍、子や兄弟姉妹などの戸籍、住民票の除票または戸籍の附票などが挙げられています(同ページ、2026年10月28日確認)。つまり、どこまで調べたかを示す戸籍が、そのまま判断の根拠になるということです。
後見人が死亡後にできること:民法873条の2
被後見人が亡くなると後見は終わります。ただ、相続人が財産を管理できるようになるまでの間、必要があるときは、後見人が次の行為をすることができます。相続人の意思に反することが明らかなときは除かれます(民法873条の2、2026年10月28日にe-Gov法令検索で確認)。
| できること | 条文 | 家庭裁判所の許可 |
|---|---|---|
| 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為 | 1号 | 要らない |
| 弁済期が来ている債務の弁済 | 2号 | 要らない |
| 死体の火葬・埋葬に関する契約の締結、その他相続財産の保存に必要な行為 | 3号 | 要る |
ここに書かれていないこと、たとえば預金を相続人候補に渡す、家を売る、といった行為は、この条文では認められていません。相続人がいるかどうか分からない段階で、後見人の判断だけで財産を動かすと、あとで「誰のお金を誰が動かしたのか」が問題になります。
葬儀や火葬を行う人がいないとき
墓地、埋葬等に関する法律9条は、死体の埋葬または火葬を行う者がないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長が行わなければならないと定めています(墓地、埋葬等に関する法律、2026年10月28日にe-Gov法令検索で確認)。
私の叔父のときは、親族が葬儀を中心になって進め、私は手配を手伝い、葬儀社との打ち合わせに同席しました。費用を決めるのは相続人という線は守りました。相続人がいないときは、この「決める人」がいません。後見人が火葬の契約を結ぶなら、前の表のとおり家庭裁判所の許可が要る、という順番になります。許可が出る前に動かず、先に家庭裁判所の窓口へ連絡して確かめてください。
判断の基準:どこまで自分で進め、どこで預けるか

全部を自分で抱え込む必要はありません。私が大事だと思う基準は、どこまで調べたか、何を根拠に止めたか、誰に何を伝えたかを記録に残して、条文の範囲を超えるところは家庭裁判所に預けることです。
- 戸籍で調べた範囲を決める:どこまでの戸籍を取ったか、取れなかった分は何が理由か
- 死亡後は873条の2の範囲にとどめる:保存・弁済・火葬の3つ以外には手を出さない
- 迷ったら、動く前に家庭裁判所に聞く:電話の日時、相手の部署、言われた内容をメモに残す
- 相続人が明らかでなければ、清算人の申立てに進む:自分で探し続けず、期限を決めて区切る
- 引き継ぐ財産の一覧と通帳の写しを、そろえて保管する:1円単位で報告してきた記録が、そのまま引き継ぎの資料になります
私は3年間、領収書に番号を振って通帳と突き合わせ、家庭裁判所に報告してきました。その記録が残っていることが、後見人にとっていちばんの備えだったと感じています。相続人がいない場面でも、同じ記録が「自分は範囲を超えていない」と示す材料になるはずです。
相続人が明らかでないときの流れ

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とされ(民法951条)、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求で、相続財産の清算人を選任します(民法952条1項)。裁判所の案内では、申立先は亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所で、申立人は利害関係人(債権者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者など)または検察官です(裁判所「相続財産清算人の選任」、2026年10月28日確認)。
後見人が申立人になれるかどうかについて、大阪家庭裁判所の手引きには、成年被後見人に相続人のあることが明らかでなく財産を引き継げない場合に、後見人等から申し立てる際の案内があります。ただ、運用は裁判所ごとに細かく違うことがあります。申立ての前に、後見の事件を担当している家庭裁判所に、自分が申立人になれるかを聞いてください。
| 段階 | やること | 後見人の目線で見ておくこと |
|---|---|---|
| 1 | 戸籍で相続人の有無を確かめる | 調べた範囲を記録に残す |
| 2 | 873条の2の範囲で、財産の保存・火葬の手配 | 火葬の契約は家庭裁判所の許可を先に得る |
| 3 | 家庭裁判所に清算人の選任を申し立てる | 申立人になれるかを、先に家庭裁判所に確認する |
| 4 | 清算人が選ばれ、公告で相続人を探す | 財産と記録を、清算人に引き継ぐ |
申立てにかかる費用と、そのあとの期間
裁判所の案内では、申立てに必要な費用は、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円(家庭裁判所の指示があってから納める)とされています。あわせて、相続財産の内容から清算人の管理費用(報酬を含む)が足りなくなるおそれがあるときは、申立人に相当額の予納金を求めることがあります(裁判所「相続財産清算人の選任」、2026年10月28日確認)。予納金の金額は事案によって違い、ページには書かれていません。被後見人の財産に流動資産が少ない場合などは、申立ての前に家庭裁判所に確かめてください。

清算人が選任されると、家庭裁判所は、その旨と、相続人がいれば一定の期間内に権利を主張するよう公告します。この期間は6か月を下ることができません(民法952条2項、2026年10月28日にe-Gov法令検索で確認)。期間内に相続人としての権利を主張する人がいないときは、相続人などはその権利を行使できなくなります(民法958条)。
そのあと、被相続人と生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人などの特別縁故者は、家庭裁判所が相当と認めるときに、残った財産の全部または一部を与えられることがあります。請求は、公告の期間が満了してから3か月以内です(民法958条の2、2026年10月28日にe-Gov法令検索で確認)。処分されなかった財産は国庫に帰属します(民法959条)。
つまり、後見人が引き継ぎを終えたあとも、手続きは長く続きます。後見人の役目は、財産と記録を清算人に引き継ぐところまでだと考えると、気持ちが少し軽くなります。
家や不動産が残っているとき
私は叔父の後見人として、空き家になった家の管理に苦労しました。電気や水道をどうするか、庭の雑草、郵便物。相続人がいないときも、清算人が決まるまでの間は、誰かが最低限の管理をする必要があります。ここでも、873条の2の「財産の保存に必要な行為」の範囲か、家庭裁判所に確かめてから動くのが基準です。
清算人が選任されたあと、その家を売るかどうかは、清算人と家庭裁判所の判断になります。後見人が先走って売却に動くことはできません。ただ、売れにくい家の扱いを事前に知っておきたいときは、訳あり物件や売れにくい家の相談を受け付けているワケガイ(PR)のようなサービスもあります。使うときは、被後見人が亡くなって相続人が明らかでないことを、最初に伝えてください。
よくある質問
相続人がいるか分からないとき、預金を後見人が解約してよいですか?
民法873条の2に書かれた、財産の保存・弁済期が来た債務の弁済・火葬などの範囲に収まるかどうかで考えます。収まるかどうか迷う場合は、金融機関に動く前に、後見の事件を担当している家庭裁判所に確認してください。私は叔父が亡くなったあと、叔父の口座からお金は引き出していません。
清算人の予納金はいくらですか?
裁判所のページには、予納金を求めることがあるとあるだけで、金額は書かれていません。相続財産の内容によって違うので、申立てる家庭裁判所に、事前に聞いてください(2026年10月28日確認)。
身の回りの世話をした親族は、財産をもらえますか?
民法958条の2には、被相続人の療養看護に努めた者などが、家庭裁判所に請求できると書かれています。ただ、与えるかどうか、どれだけ与えるかは、家庭裁判所が相当と認めるかどうかで決まります。請求の期限が公告の満了後3か月以内なので、早めに専門家に相談してください。
相続人がいないか、自分で調べきれません
戸籍を出生までさかのぼって集めるのは、時間がかかります。調べきれないところで区切り、取れた戸籍の範囲を記録して、家庭裁判所や弁護士・司法書士などの専門家に相談するのも一つの方法です。後見の終了後の流れは、被後見人が死亡したら後見人がやることの記事もどうぞ。
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売れにくい家の扱いに迷ったら、先に相談する
相続人が明らかでない家は、すぐには売れません。ただ、売れにくい理由や、あとで必要になる準備は、先に聞いておけます。訳あり物件の相談を受け付けている「ワケガイ」に、家の状態を伝えて聞いてみるのも一つの方法です。
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※この記事は一般的な情報で、法律の助言ではありません。相続人がいない場合の手続きや、後見人が申立人になれるか、予納金の額は、事案と家庭裁判所によって違います。実際の手続きの前に、後見の事件を担当している家庭裁判所や、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
この記事を書いた人:くじら99(元・成年後見人)
300km離れた認知症の叔父の成年後見人を、家庭裁判所に選ばれて、会社員のまま3年務めました。法律の専門家ではありません。家庭裁判所に出した書類や見積書など、記録が残っていることを書いています。運営者について
