家族信託を始めるタイミングは「親が元気なうち」| 帰省中に切り出す方法と話し合うべきこと

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「そのうち、ちゃんと話さないとな」

くじら99

親の財産や将来のことについて、そう思いながら何年も過ぎていないでしょうか。

私は成年後見人として3年間、認知症になった親族の財産管理を担当しました。

そのとき痛感したのは、「認知症になってからでは、選べる手段がほとんど残っていない」という現実です。実家を売るにも家庭裁判所の許可が要り、毎年の報告義務に追われ、本人のためのお金なのに1円単位で説明を求められる。

もし親が元気なうちに家族信託という選択肢を知っていたら、まったく違う3年間だったはずです。この記事では、家族信託を始めるべきタイミングと、帰省の機会に親へ切り出す具体的な方法をまとめます。

【この記事でわかること】
・家族信託は「親が元気なうち」にしか契約できない理由
・家族信託が必要なケース・必要ないケース
・成年後見制度・任意後見・遺言との違い
・親が元気なうちに確認しておきたいチェックリスト
・帰省中に家族信託を切り出す具体的な方法
・家族信託の設計で決めること・開始までの流れ
・費用の内訳と開始後に必要な管理

第1章:家族信託を始めるタイミングは「親が元気なうち」

1-1. 家族信託はいつから始まった?制度の仕組みと注目される背景

家族信託は、2007年(平成19年)の改正信託法の施行によって一般の家庭でも使えるようになった、比較的新しい財産管理の仕組みです。

それまで「信託」といえば信託銀行が扱う高額な商品でしたが、法改正により営利目的でない家族間の信託契約が認められたことで、認知症対策として急速に注目されるようになりました。

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仕組みはシンプルです。

財産を持つ親(委託者)が、信頼できる子(受託者)に財産の管理・処分を任せ、その利益は親自身(受益者)が受け取る。この契約を結んでおけば、親の判断能力が低下した後も、子が親のために財産を動かせます。

1-2. 契約締結には本人の意思能力が必要|認知症発症後に起こる問題

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ここが家族信託の最大にして唯一の制約です。

家族信託は「契約」であるため、親本人に契約内容を理解する意思能力が必要です。

認知症が進み判断能力が失われた後は、契約そのものが結べません。公証役場で公正証書を作成する際、公証人が本人と面談して意思能力を確認するため、ここで「難しい」と判断されれば手続きは止まります。

認知症発症後に起こることを整理します。

  • 銀行口座が事実上凍結される:金融機関が判断能力の低下を把握すると、本人以外の引き出しに応じなくなる
  • 不動産の売却ができない:売買契約は本人が結ぶ必要があるため、施設費用を捻出するために実家を売ることもできない
  • 施設入所の契約が進まない:高額な入居一時金の支払いが止まる
  • 相続対策が一切できなくなる:生前贈与・遺言作成も判断能力が前提

この状態を「資産凍結」と呼びます。親の財産があるのに、家族が一切使えなくなる——これが認知症対策をしなかった場合に直面する現実です。

1-3. 資産凍結を防ぎ、介護・老後の財産管理を続けるための事前準備

厚生労働省の推計では、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は将来的に5人に1人程度に達するとされています。さらに軽度認知障害(MCI)まで含めると、その割合はさらに高くなります。

⚠️ 「まだ元気だから大丈夫」が最も危険な理由

認知症は、ある日突然発症するものではありません。少しずつ進行し、気づいたときには契約ができない状態になっています。「来年の正月に話そう」と先送りしているうちに、選択肢が消えるケースは実際にあります。元気なうちにしか使えない制度は、元気なうちに動くしかありません。

第2章:家族信託が必要ないケースもある?検討すべき条件

2-1. 預貯金や不動産の管理・売却・処分を子どもに任せたいケース

家族信託が最も力を発揮するのが、不動産を持っている家庭です。

  • 親が施設に入所したら実家は空き家になる可能性が高い
  • 空き家の管理・修繕・売却をスムーズに進めたい
  • 実家を売った資金を施設費用に充てたい
  • 老朽化した建物の解体・建て替えを検討する可能性がある

成年後見制度では、居住用不動産の売却に家庭裁判所の許可が必要で、申立てから許可まで数ヶ月かかることがあります。家族信託なら、受託者である子の判断で速やかに動けます。

2-2. 賃貸不動産・事業の収益を継続して運用し、承継したいケース

アパート・駐車場などの賃貸経営をしている場合、認知症になると以下がすべて止まります。

  • 賃貸借契約の更新・新規契約の締結
  • 修繕・リフォームの発注
  • 建て替えのための融資契約
  • 物件の売却・買い増し

また会社を経営している場合、自社株を信託しておくことで議決権の行使を後継者に託し、経営の停滞を防げます。

2-3. 財産が少ない・家族関係が複雑などデメリットが大きいケース

一方で、家族信託が向かないケースもあります。

状況理由
財産が預貯金のみで金額も少ない初期費用(30〜100万円)に見合わない可能性がある
信頼して任せられる家族がいない受託者は財産を管理する重い責任を負う
兄弟間の関係が悪い受託者選定で紛争になりやすい
身上監護(介護契約等)が主な目的家族信託では身上監護ができない。任意後見が必要
すでに認知症が進行している契約締結ができない。成年後見制度を検討する

重要なのは「家族信託は万能ではない」と理解することです。

身上監護が必要なら任意後見と併用する、相続の分配を確定させたいなら遺言と組み合わせる——目的に応じた設計が必要になります。

第3章:成年後見制度・任意後見・遺言との違い

3-1. 成年後見制度では難しい資産運用や不動産売却への対応

成年後見制度は「本人の財産を守る」ことが目的です。そのため、財産を減らす可能性のある行為には極めて慎重になります。

行為成年後見家族信託
居住用不動産の売却家裁の許可が必須契約内容の範囲で可能
資産運用・投資原則不可契約で定めれば可能
アパートの建て替え・修繕大規模なものは困難可能
生前贈与・相続対策原則不可設計次第で可能
家裁への報告義務毎年必須なし(受益者への報告義務はある)
専門職への報酬選任された場合、毎年発生初期費用のみが基本

私が後見人として経験した中で最も重かったのが、毎年の定期報告と、不動産売却時の家裁許可でした。1円単位で通帳と領収書を突き合わせ、書類を作り、許可が下りるのを数ヶ月待つ。これが法定後見の日常です。

3-2. 任意後見と家族信託の違い|開始時期・権限・監督の仕組み

任意後見も家族信託と同じく「元気なうちに準備する」制度ですが、性質が異なります。

項目任意後見家族信託
効力の発生判断能力低下後(家裁が監督人を選任してから)契約締結時から即時
身上監護できるできない
財産の積極的な運用難しい可能
監督任意後見監督人(報酬が発生)契約で自由に設計
死亡後の効力終了する信託は継続できる(承継指定が可能)

両者は競合せず、併用が理想的です。財産管理は家族信託、介護・医療の契約などの身上監護は任意後見——という役割分担が、最も隙のない備え方になります。

3-3. 相続対策としての遺言と信託契約書の役割

遺言は「死亡後」に効力が生じるもので、生前の財産管理には使えません。一方、家族信託は生前の管理と死亡後の承継を同じ契約で設計できる点が特徴です。

特に家族信託にしかできないのが「受益者連続型信託」です。「自分が亡くなったら妻へ、妻が亡くなったら長男へ」と、二次相続以降の承継先まで指定できます。遺言では次の相続までしか指定できないため、これは大きな違いです。

ただし信託財産に含めなかった財産は信託の対象外です。家族信託と遺言はセットで準備するのが基本と考えてください。

第4章:親が元気なうちに確認しておきたいチェックリスト

4-1. 財産の全体像:口座・不動産・保険・負債の名義と保管場所

家族信託を設計するにも、そもそも「何があるか」が分からなければ始まりません。

私が後見人として最初につまずいたのも、財産の全容把握でした。本人に判断能力がなくなってからの財産調査は、想像の何倍も大変です。

✅ 財産に関する確認リスト

  • 取引のある銀行・信用金庫(支店名まで)と通帳の保管場所
  • ネット銀行・ネット証券の有無とID管理の方法
  • 不動産の所在地・登記済権利証(登記識別情報)の保管場所
  • 固定資産税の課税明細書の保管場所
  • 生命保険・医療保険の証券番号と保険会社
  • 有価証券・投資信託・暗号資産の有無
  • 住宅ローン・借入金・連帯保証の有無
  • 年金の受給状況と振込口座
  • 実印・印鑑登録カードの保管場所
  • 貸金庫の契約有無と鍵の場所

4-2. 将来の希望:介護・施設入居・実家の活用・相続の考え方

財産の話だけを聞こうとすると、親は身構えます。「どう生きたいか」を先に聞くことで、財産の話は自然についてきます。

✅ 将来の希望に関する確認リスト

  • 介護が必要になったら自宅と施設のどちらを希望するか
  • 施設に入る場合、費用はどこから出す想定か
  • 延命治療についての考え方
  • 実家は将来どうしてほしいか(売却・維持・誰かが住む)
  • お墓・葬儀についての希望
  • 財産を誰にどう分けたいか(大まかな方針でよい)
  • すでに遺言書を書いているか・保管場所はどこか
  • かかりつけ医・持病・服薬の内容

4-3. 信頼できる受託者は誰か|家族全員で役割と利益相反を話し合う

受託者は財産を管理する重い責任を負います。「近くに住んでいるから」という理由だけで決めると、後で必ず揉めます。

  • 受託者の適性:財産管理をきちんと記録できるか、長期にわたって担えるか
  • 他の兄弟の納得感:なぜその人が受託者なのかを全員が理解しているか
  • 利益相反への配慮:受託者が自分に有利な運用をしないための歯止めを契約に入れる
  • 予備の受託者:受託者が先に亡くなった・病気になった場合の第二受託者を決めておく
  • 報告のルール:受託者が他の家族へ定期的に状況を報告する仕組みを設ける

「家族信託 兄弟トラブル」で検索する人が一定数いるのは、この設計を曖昧にしたまま進めた結果です。受託者を決めるプロセスそのものを、全員が見える形で進めてください。

4-4. 親の判断能力と健康状態を踏まえ、始める時期を見極める

次のようなサインが見えたら、検討を先送りしないでください。

⚠️ 「今すぐ動くべき」サイン

  • 同じ話を何度も繰り返すようになった
  • 物の置き場所を頻繁に忘れる・探し物が増えた
  • 通帳や印鑑の管理があいまいになってきた
  • 公共料金や税金の払い忘れがあった
  • 片付けや掃除ができなくなってきた
  • 薬の飲み忘れが増えた
  • 身だしなみへの関心が薄れてきた

これらは日常会話や短時間の帰省でも気づけるサインです。「去年と違う」と感じたら、それが動くべきタイミングです。

第5章:帰省が最大のチャンス|親に切り出す方法と家族会議の進め方

5-1. 「財産を奪う話」と誤解させない説明のしかた

親がこの話を嫌がる最大の理由は、「자分の財産を狙われている」「もう終わりだと思われている」と感じるからです。だからこそ、切り出し方がすべてを決めます。

NGな言い方言い換え例
「相続の話をしたい」「もしものとき、私たちが困らないように教えてほしい」
「認知症になったらどうするの」「元気なうちにしかできない手続きがあるらしいんだ」
「財産はいくらあるの」「入院したとき、どの通帳から払えばいいか分かるようにしておきたい」
「実家は売った方がいい」「この家、将来どうしたいと思ってる?」
「名義を変えておこう」「お父さんの財産はお父さんのまま、管理だけ手伝える方法があるらしい」

特に有効なのが「私たちが困らないように」という言い方です。親は自分のためより、子のためと言われた方が動きます。

また家族信託は名義こそ受託者に移りますが、利益を受けるのは親本人(受益者)のままです。この点を正確に伝えると誤解が解けます。

5-2. 帰省前に子ども・配偶者で論点を調整し、家族会議で共有する

いきなり親の前で兄弟が意見を戦わせると、親は不安になり心を閉ざします。

帰省前に、子ども側だけで方向性をすり合わせておくことが重要です。

  1. 帰省の1ヶ月前:兄弟のグループLINE等で「今度帰ったとき、親の今後のことを少し聞いてみたい」と共有する
  2. 帰省の2週間前:誰が主に話を切り出すか、何を聞くかを決める
  3. 帰省当日:食事の後など、リラックスした時間に自然に切り出す
  4. その場では決めない:情報を聞くだけにとどめ、結論を急がない
  5. 帰省後:聞いた内容を兄弟で共有し、専門家への相談を検討する

【最大のコツ】その日のうちに決めようとしない
家族信託の契約は数ヶ月かかる話です。帰省中にやるべきことは「決めること」ではなく「話題として出しておくこと」だけで十分です。一度話題に出しておけば、次の電話や帰省で自然に続きが話せます。

5-3. 親が拒否する・親族間で意見が割れる場合の対応

親が拒否した場合——無理に押さないでください。拒否は「まだ自分でできる」というプライドの表れであることが多く、否定すると関係が悪化します。

  • その場は「わかった、また今度話そう」で引く
  • ニュースや知人の話など、第三者の事例を経由して再度話題にする
  • 「財産の話」ではなく「介護の話」から入り直す
  • 親が信頼している人(かかりつけ医・親の兄弟など)から話してもらう

兄弟で意見が割れた場合——家族だけで結論を出そうとすると感情論になります。この段階で司法書士等の第三者を入れると、議論が「感情」から「制度」に移り、まとまりやすくなります。

💡 家族信託の手続き・費用の全体像はこちら
契約書の作成から公正証書・信託口口座の開設・不動産登記まで、手続きの流れと費用の内訳をまとめています。
▶ 家族信託とは何か・誰に頼む?手続きの流れと費用をわかりやすく解説

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第6章:家族信託の設計で決めること

6-1. 委託者・受託者・受益者とは?家族信託の基本的な仕組み

役割内容一般的な例
委託者財産を預ける人(信託を設定する人)
受託者財産を管理・運用・処分する人子(長男・長女など)
受益者財産から利益を受ける人親(委託者と同一が基本)
信託監督人受託者を監督する人(任意)司法書士・他の兄弟など
帰属権利者信託終了時に財産を受け取る人子・孫など

ポイントは「委託者=受益者」にすることで贈与税がかからない点です。親の財産の名義は子に移りますが、利益を受けるのは親のままなので、税務上の贈与にはあたりません。

6-2. 信託の目的・管理権限・給付条件・次の受益者を設計する

契約書に何を書くかで、家族信託の使い勝手は決まります。特に重要な項目は以下です。

  • 信託の目的:「委託者の安定した生活と適切な財産管理」など。ここが権限の範囲を決める基準になる
  • 信託財産の特定:どの不動産・どの口座を対象にするか(全財産を包括的に信託することはできない)
  • 受託者の権限:売却できるか、賃貸できるか、借入ができるかを明記する
  • 受益者への給付方法:生活費・医療費・施設費をどう支払うか
  • 信託の終了事由:委託者の死亡時か、一定期間経過時か
  • 帰属権利者:終了時に誰が財産を引き継ぐか

⚠️ 雛形をそのまま使うのは危険
インターネット上に契約書の雛形がありますが、家族の状況に合っていない契約書は「いざというときに受託者が動けない」という致命的な問題を生みます。特に不動産・株式を含む場合、権限の書き方ひとつで売却できるかどうかが変わります。

6-3. 不動産登記・信託口口座・損益通算など財産別の注意点

  • 不動産:信託登記が必要。登記簿に「受託者」「信託目録」が記載される。登録免許税は土地0.3%・建物0.4%(固定資産税評価額に対して)
  • 金銭:受託者名義の「信託口口座」を開設する。対応している金融機関が限られるため事前確認が必要
  • 賃貸不動産:信託した不動産から生じた損失は、他の所得と損益通算できない(租税特別措置法)。収益物件がある場合は税理士への相談が必須
  • 農地:農地法の制限により信託できない
  • 年金受給権:信託できない(年金は本人名義の口座にしか振り込めない)

6-3. 不動産登記・信託口口座・損益通算など財産別の注意点

  • 不動産:信託登記が必要。登記簿に「受託者」「信託目録」が記載される。登録免許税は土地0.3%・建物0.4%(固定資産税評価額に対して)
  • 金銭:受託者名義の「信託口口座」を開設する。対応している金融機関が限られるため事前確認が必要
  • 賃貸不動産:信託した不動産から生じた損失は、他の所得と損益通算できない(租税特別措置法)。収益物件がある場合は税理士への相談が必須
  • 農地:農地法の制限により信託できない
  • 年金受給権:信託できない(年金は本人名義の口座にしか振り込めない)
  • 上場株式・投資信託:証券会社が信託口座に対応していない場合があるため、事前に取扱いの可否を確認する

【重要】信託できない財産がある
家族信託は「全財産をまとめて信託する」ことができません。農地・年金受給権・生命保険の契約者としての地位などは対象外です。また信託財産に含めなかった預貯金は、認知症になれば凍結されます。「どの財産を信託するか」の線引きが、設計の要になります。

第7章:家族信託を開始するまでの流れ|相談から契約・登記まで

7-1. 無料相談で確認したいこと|専門家の選び方

家族信託は、扱う専門家によって対応範囲が異なります。まず違いを理解してください。

専門家対応できること費用目安
司法書士契約書作成・不動産の信託登記・口座開設支援30〜80万円
弁護士契約書作成・親族間の紛争対応50〜100万円以上
行政書士契約書作成(登記・税務は別途)20〜50万円
税理士贈与税・相続税・信託の税務申告別途見積もり
ワンストップサービス相談〜契約〜登記〜運用サポートまで一括サービスによる

不動産がある場合は登記が必要なため司法書士が必須、収益物件がある場合は税理士も必要になります。複数の専門家を自分でコーディネートする負担を避けたいなら、ワンストップ型を選ぶのが現実的です。

✅ 無料相談で必ず確認すべきこと

  • 家族信託の取り扱い実績はどのくらいあるか
  • 自分のケースで家族信託が本当に適切か(不要なら不要と言ってくれるか)
  • 費用の総額と内訳(登記費用・公証役場費用を含むか)
  • 税務面の相談に対応できる体制があるか
  • 信託口口座を開設できる金融機関を紹介してもらえるか
  • 契約締結後の運用サポートはあるか
  • 親の判断能力に不安がある場合、どこまで対応できるか
  • 受託者になる子への説明・指導もしてもらえるか

注意したいのは、「家族信託ありき」で提案してくる専門家です。本来、財産や家族構成によっては任意後見や財産管理委任契約で十分なケースもあります。「あなたの場合は家族信託でなくてもよい」と言ってくれる専門家の方が、結果的に信頼できます。

また、費用の見積もりは必ず総額で確認してください。「設計費用30万円」と言われても、そこに公正証書の手数料・登記の登録免許税・司法書士の登記報酬が含まれていなければ、実際の支払いは倍近くになることがあります。

7-2. 財産調査と家族の希望を基に信託プラン・契約書を作成する

相談後の流れは以下の通りです。

  1. 家族の希望のヒアリング:何のために信託するのか、誰が受託者になるのかを整理する
  2. 財産調査:登記事項証明書・固定資産評価証明書・通帳等を集めて信託財産を確定する
  3. 信託プランの設計:専門家が契約内容の草案を作成する
  4. 家族への説明・合意形成:受託者にならない兄弟にも内容を共有する
  5. 契約書の確定:修正を重ねて最終版にする

この段階でおおよそ1〜2ヶ月かかります。家族の合意形成に時間がかかる場合はさらに延びます。

この工程で用意する主な書類は以下です。帰省のタイミングで親から預かっておくと、後の手続きが一気に進みます。

書類取得先備考
委託者・受託者の印鑑証明書市区町村役場発行から3ヶ月以内のもの
委託者・受託者の住民票市区町村役場本籍・続柄の記載があるもの
戸籍謄本本籍地の市区町村役場親子関係の確認に使う
登記事項証明書(不動産)法務局信託する不動産すべて分
固定資産評価証明書市区町村役場登録免許税の計算に使う
本人確認書類運転免許証・マイナンバーカード等
通帳のコピー信託する口座の特定に使う

【帰省中にできること】
契約の話まで進まなくても、「不動産の権利証がどこにあるか」「どの銀行に口座があるか」を確認しておくだけで、後の手続きが大幅に楽になります。親に「万一入院したとき、どの通帳を持っていけばいいか教えて」と聞けば、抵抗なく教えてもらえることが多いです。

7-3. 公正証書の作成・契約締結・不動産登記・銀行手続きの流れ

  1. 公証役場で公正証書を作成:公証人が委託者本人と面談し、意思能力を確認したうえで公正証書化する。必ず本人の出席が必要(体調により公証人の出張も可)
  2. 信託契約の締結:委託者と受託者が契約を結ぶ
  3. 不動産の信託登記:法務局に申請。登記簿に受託者名と信託目録が記載される
  4. 信託口口座の開設:受託者名義で開設し、信託する金銭を移動する
  5. 運用開始:受託者が信託帳簿をつけながら財産を管理する

ここからさらに1〜2ヶ月。相談開始から運用開始まで、合計で3〜4ヶ月、余裕を見て半年が一般的な目安です。

意外な落とし穴が信託口口座の開設です。すべての金融機関が対応しているわけではなく、対応していても以下のような条件があります。

  • 信託財産の金額に下限がある(1,000万円以上など)
  • 金融機関指定の司法書士が作成した契約書でないと受け付けない
  • 契約書のドラフト段階で金融機関の事前審査が必要
  • 開設手数料がかかる(数万円〜10万円程度)

そのため契約書を作る前に、口座を開設する金融機関を決めて事前相談するのが正しい順番です。ここを飛ばすと、完成した契約書で口座が作れず作り直しになります。

⚠️ 公証人の面談が最後の関門
公正証書の作成時、公証人は委託者本人と面談して意思能力を確認します。ここで「契約内容を理解できていない」と判断されれば、公正証書は作成できません。それまでにかけた時間と費用が無駄になります。「話を始めてから半年かかる」ことを前提に、余裕を持って動いてください。

7-4. 家族信託にかかる費用の内訳と、開始後も必要になる管理

費用項目目安備考
専門家報酬(設計・契約書作成)30〜80万円信託財産額の1%前後が一つの目安
公正証書作成手数料3〜10万円程度信託財産の価額により変動
信託登記の登録免許税(土地)評価額×0.3%例:評価額1,000万円なら3万円
信託登記の登録免許税(建物)評価額×0.4%例:評価額500万円なら2万円
登記の司法書士報酬8〜15万円程度不動産の数により変動
信託口口座の開設費用0〜10万円程度金融機関により異なる

初期費用の合計はおおむね50〜120万円が目安です。高いと感じるかもしれませんが、比較すべきは「何もしなかった場合」のコストです。

家族信託法定後見(専門職が選任された場合)
初期費用50〜120万円申立費用1〜2万円+鑑定費用(必要時5〜10万円)
継続費用原則なし月2〜6万円(本人が亡くなるまで)
10年間の総額目安50〜120万円240〜720万円
不動産の売却受託者の判断で可能家裁の許可が必要(数ヶ月)
毎年の事務負担帳簿と年1回の報告家裁への定期報告(1円単位の突合)
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10年続けば240〜720万円。

長期で見れば家族信託の方が安く済むケースは珍しくありません。しかも法定後見では、誰が後見人になるかを家庭裁判所が決めるため、親族が希望しても専門職が選任されることがあります。

また、開始後も受託者には以下の義務が残ります。「契約したら終わり」ではない点は理解しておいてください。

  • 分別管理義務:信託財産と受託者自身の財産を明確に分けて管理する
  • 信託帳簿の作成・保存:入出金の記録を残す(10年間の保存義務)
  • 年1回の報告:受益者(親)に対して財産状況を報告する
  • 信託計算書の提出:信託財産から年間3万円以上の収益がある場合、税務署へ提出(毎年1月31日まで)
  • 忠実義務:受益者の利益のためだけに行動する義務

とはいえ、家庭裁判所に提出する法定後見の定期報告に比べれば、格段に負担は軽いです。私が毎年やっていた「通帳と領収書を1円単位で突き合わせてナンバリングする」作業は、家族信託では必要ありません。

第8章:元気なうちに家族信託を検討し、将来の認知症・相続に備えよう

8-1. 判断能力が低下する前に、親の意思と希望を確認する

家族信託の本質は、財産管理の手続きではありません。

「親がどう生きたいか」を、判断能力があるうちに形にしておくことです。

私が後見人として最も苦しかったのは、本人の意思が確認できない状態で、本人の財産について重大な判断を迫られたことでした。実家を売るべきか。どの施設に入れるべきか。本人はどうしたかったのか——聞ける状態ではもうありませんでした。

家庭裁判所の許可を待ちながら空き家を管理していた期間、屋根の一部が破損して修繕費が発生しました。あのとき本人の意思が明確になっていれば、もっと早く動けたはずです。「本人のために」という判断を、本人抜きで下し続ける重さは、経験しないと分かりません。

家族信託の契約書には、信託の目的として「委託者の安定した生活の支援」といった文言が入ります。これは形式的な一文ではなく、受託者が迷ったときに立ち返る基準になります。親が元気なうちに、その基準を親自身の言葉で決めておく——それが家族信託の最大の価値です。

8-2. 家族だけで決めず、専門家の提案を受けて無理のない設計をする

家族信託は「使うべき人」と「使わなくてよい人」がはっきり分かれる制度です。

状況推奨される備え
不動産がある・親が元気家族信託を検討(+任意後見の併用)
賃貸経営・事業を営んでいる家族信託を強く推奨
財産は預貯金のみ・少額任意後見・財産管理委任契約で足りる場合がある
介護・医療の契約が主な心配任意後見契約を優先
二次相続まで承継先を決めたい受益者連続型の家族信託
すでに判断能力が低下している成年後見制度の申立てを検討

「家族信託ありき」で進めず、自分の家庭にとって必要かどうかを専門家に確認するところから始めてください。

相談してみたら「あなたの場合は任意後見で十分です」と言われることもあります。

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それはそれで、大きな安心を得たことになります。

8-3. 帰省・法事・誕生日をきっかけに、まずは親子で会話を始める

この話を切り出す「完璧なタイミング」は永遠に来ません。だからこそ、家族が集まる機会を口実にしてください。

  • お盆・年末年始の帰省
  • 法事・親戚の集まり
  • 親の誕生日・敬老の日
  • 親が入院・通院したタイミング
  • 知人や親戚に認知症・相続の話題が出たとき
  • ニュースで認知症や空き家問題が報じられたとき

最初の一歩は「契約すること」ではなく、「話題に出すこと」です。今日その一言を口にできるかどうかが、5年後の家族の状況を変えます。

✅ 帰省中にできる3つのこと(これだけで十分)

  • ①親の様子を観察する:去年と比べて変化がないか。物忘れ・片付け・薬の管理をさりげなく見る
  • ②通帳と権利証の場所だけ聞く:「入院したときに困らないように」と伝えれば自然に聞ける
  • ③「元気なうちにしかできない手続きがあるらしい」と一言だけ言う:この日は決めなくていい。種をまくだけ

私は後見人としての3年間で、「もっと早く知っていれば」と何度も思いました。この記事を読んでいるあなたには、同じ後悔をしてほしくありません。

親が元気なうちは、選択肢がたくさんあります。家族信託、任意後見、遺言、生前贈与——どれを選ぶかは後で決めればいい。

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ただ「選べる状態」は、永遠には続きません。

親が元気な今しか、選べない選択肢があります

家族信託は判断能力があるうちにしか契約できません。「うちの場合はどうすべきか」「そもそも必要なのか」——まずは専門家に確認してみてください。「おやとこ」は相談・設計・契約書作成・登記・口座開設・運用サポートまでワンストップで対応します。

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📌 間に合わなかった場合に待っている現実
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🏠 実家が空き家になる前に考えておきたいこと
親が施設に入所すると実家は空き家になります。売れない場合の手放し方、放置のリスク、後見人が売却する際の家裁許可まで解説しています。
▶ 空き家が売れない理由と手放す方法|田舎の実家・再建築不可・相続した家をどうするか

よくある質問

Q 家族信託を始めるベストなタイミングはいつですか?

親に判断能力があるうちであれば早いほど有利です。目安として親が70歳を超えたら検討を始め、物忘れのサインが見え始めたら即座に動いてください。相談から運用開始まで3〜6ヶ月かかるため、「まだ大丈夫」と思える時期に着手するのが理想です。

Q 親が軽度の認知症です。まだ家族信託はできますか?

軽度であれば契約できる可能性があります。判断基準は「契約内容を理解できるか」であり、診断名だけで決まるものではありません。ただし公正証書作成時に公証人が本人と面談して確認するため、可否は個別判断になります。少しでも不安があれば、すぐに専門家に相談してください。

Q 親が「財産を狙っているのか」と怒ってしまいました。どうすればいいですか?

その場は引いて、時間を置いてください。家族信託は名義こそ子に移りますが、利益を受けるのは親本人のままです。この点を正確に伝えると誤解が解けることがあります。「相続の話」ではなく「入院したときに困らないための話」として切り出し直すのも有効です。

Q 兄弟のうち誰が受託者になるべきですか?

財産管理を継続的に記録できる人が適任です。ただし「誰がなるか」以上に「なぜその人なのかを全員が納得しているか」が重要です。受託者以外の兄弟への定期報告ルールを契約に盛り込み、第二受託者も決めておくとトラブルを防げます。

Q 家族信託と成年後見制度、費用はどちらが安いですか?

初期費用は家族信託が50〜120万円と高額ですが、成年後見は専門職が選任されると月2〜6万円の報酬が本人が亡くなるまで続きます。10年で240〜720万円になるため、長期で見れば家族信託の方が安く済むケースが多くあります。

Q 家族信託をすると相続税が安くなりますか?

家族信託そのものに節税効果はありません。信託財産も相続税の課税対象です。ただし認知症で資産が凍結されると相続対策が一切できなくなるため、「対策を続けられる状態を保つ」という点で間接的な効果があります。節税を目的とするなら税理士への相談が必要です。

この記事を書いた人

くじら99(元・成年後見人)

300km離れた認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され成年後見人を3年間務めました。毎年の定期報告、不動産売却の家裁許可申請、施設入所の手続き——法定後見の制約を実務ですべて経験。「元気なうちに家族信託を知っていれば」という後悔から、同じ立場になる前の方に向けてこの記事を書きました。

後見人3年間(家庭裁判所選任) 財産管理・不動産売却・相続まで経験 遠距離300km・就業中に並行して対応

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