家族が亡くなって、相続人の中に、認知症などで成年後見人がついている人がいる。借金が多そうで相続放棄をしたいけれど、本人は手続きができない。誰が、いつまでに、どうやるのか。そう迷っている方へ。あるいは、あなたが後見人で、被後見人が相続人になってしまった場合も同じです。
私は、認知症の叔父の成年後見人を3年務めました。ただし、この記事のテーマである「後見のついた人の相続放棄」は、私の体験として書ける範囲の外です。そのため、民法と裁判所の公開情報で確かめた内容を解説し、後見人を務めた目線のコメントだけを添えます。
結論:後見人が本人に代わって申述する。期限の数え始めは後見人が知った日
| 状況 | 相続放棄の進め方 | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 被後見人が相続人になった | 後見人が法定代理人として申述する | 3か月の数え始め(後見人が知った日)と、相続財産の中身 |
| 後見人も同じ相続の相続人 | 後見人と被後見人の利益が相反するおそれがある | 後見監督人の有無。家庭裁判所に進め方を聞く |
| 被後見人本人が亡くなった | 後見人の仕事は終わる。放棄は相続人が自分で決める | 誰が相続人か。期限は各自の「知った日」から |
つまり、被後見人は自分で放棄の申述をするのではなく、後見人が代理します。裁判所のページにも、相続人が成年被後見人であるときは、その法定代理人が代理して申述するとあります(2026年10月23日確認)。大事なのは、後見人が相続放棄の期限を数えるのは、後見人が相続の開始を知った日という点です。
期限:3か月は、後見人が知った日から数える

民法915条1項は、相続人は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄のどれかをするとしています。ただし、この期間は、利害関係人などの請求で家庭裁判所が伸ばせます(民法915条1項、2026年10月23日e-Gov法令検索で確認)。
相続人が成年被後見人のときは、この3か月は、その法定代理人が本人のために相続の開始を知った時から数えます(民法917条、2026年10月23日確認)。後見人が就任する前の日付ではなく、後見人が知った日が基準になる、という条文です。
| 確かめること | 書き方の例 |
|---|---|
| 亡くなった日 | ○月○日、○○が死亡 |
| 後見人が相続の開始を知った日 | ○月○日、親族の○○から電話で聞いた |
| 3か月の期限 | ○月○日(家庭裁判所に確認した日も書く) |
私が後見人として経験したのは、1円単位で家庭裁判所に報告し、領収書に番号を振って通帳と突き合わせる、という記録の作業でした。期限が絡む手続きほど、「いつ知ったか」を後から説明できる形で残しておくことをすすめます。
後見人が放棄の申述をするときの流れ

- 申述先:亡くなった人(被相続人)の最後の住所地の家庭裁判所
- 費用:収入印紙800円分(申述人1人につき)。連絡用の郵便切手の額は裁判所ごとに違うので、申述先の案内で確かめる
- 書類:申述書のほか、被相続人や申述人の戸籍などが要ります。続柄で追加書類が変わるため、申述先の「必要な書類」の案内を見る
- 後見人の資格:後見人であることを示す書類(登記事項証明書など)を求められるかは、申述先の裁判所に聞く
出典:裁判所「相続の放棄の申述」(2026年10月23日確認)、申述先ごとの案内(各地の家庭裁判所のページ)。後見人の資格を示す書類の扱いは、私は確かめきれていないので、申述の前に電話で聞くのが確実です。
後見人が相続人でもあるとき:利益相反に注意
たとえば、親族が被後見人の後見人になっていて、同じ相続で後見人本人も被後見人も相続人、というケースです。民法860条は、親権者と子の利益が相反する行為について特別代理人を選ぶ規定(826条)を、後見人にも準用しています。ただし、後見監督人がいるときはこの限りではありません(民法860条、2026年10月23日確認)。
裁判所のページでは、未成年者の場合として、「未成年者と法定代理人が共同相続人で、未成年者だけが申述するとき(法定代理人が先に申述している場合を除く)」は特別代理人の選任が必要と説明されています(2026年10月23日確認)。成年後見の場合にどう扱うかは、ページには書かれていませんでした。順番や必要な手続きは、家庭裁判所に聞いてください。私は後見監督人がついていない後見でしたが、この場面は経験していません。
放棄の前にしてはいけないこと:相続財産を処分しない
民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認したものとみなすとしています。保存行為は除かれます(民法921条、2026年10月23日確認)。一方、915条2項は、承認や放棄の前に相続財産を調査することを認めています。
つまり、放棄を考えているあいだは、調べるのはよい。使う・売る・解約して受け取るのは避けるが基本の線です。どこまでが保存行為にあたるか迷う場面では、その場で判断せず、家庭裁判所か専門家に聞いてからにしてください。
放棄が認められると、その人は初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条、2026年10月23日確認)。借金を避けられる一方で、プラスの財産も受け取れなくなります。
被後見人本人が亡くなったとき:放棄は相続人が決める
被後見人が亡くなると、後見人の仕事は終わります。亡くなった本人の相続を放棄するかどうかは、相続人それぞれが、自分のために相続を知った日から3か月で決めます。後見人だった人が代わりに申述するものではありません。
私は叔父の死後、親族として死亡届や退去・精算などを行い、後見人の権限が消えたあとの手続きに苦労しました。後見人としての終了の手続きは被後見人が死亡したら後見人がやることに、相続人に認知症の人がいる場合の進め方は後見人がいる相続・相続人に認知症の人がいるときの進め方にまとめています。
判断の基準:どこまで自分で調べ、どこから専門家に任せるか

- 期限を確定する:後見人が知った日を書き、期限(民法915条・917条、2026年10月23日確認)を日付で控える
- 財産と借金を調べる:預金・不動産・借金の通知。調べるのは放棄の前でもできる
- 使わない:相続財産の処分にあたりそうな支払いや解約は止める
- 期限が足りなければ伸長を考える:調査が間に合わないときは、家庭裁判所に期間の伸長を相談する
- 迷いが残るなら専門家へ:借金の額が分からない、相続人が多い、後見人も相続人、のいずれかなら弁護士・司法書士に聞く
私のやり方は、ある程度のところで判断し、どういう基準で判断したかを記録に残すことです。ここでは、「調べるのは自分でする。放棄の可否や利益相反は専門家に確かめる」と線を引くことをすすめます。
| 残すこと | 書き方の例 |
|---|---|
| 知った日と期限 | ○月○日に知った。期限は○月○日 |
| 調べたこと | ○月○日、○○銀行に残高を照会。借金の通知は○件 |
| どこで判断したか | 借金が預金を上回りそうなので、放棄を検討。家庭裁判所に○月○日に電話 |
| 誰に聞いたか | ○月○日、司法書士の○○さんに相談。利益相反は要確認と言われた |
よくある質問
被後見人の相続放棄に、家庭裁判所の許可は要りますか?
申述そのものは家庭裁判所に出す手続きです(裁判所「相続の放棄の申述」、2026年10月23日確認)。そのほかに、後見の立場で別の許可が要るかどうかは、私は公式の情報で確かめられていません。申述の前に、後見を担当している家庭裁判所に聞いてください。
3か月に間に合わなかったら?
期間は家庭裁判所に請求して伸ばせます(民法915条1項ただし書)。期限が過ぎてしまった場合の扱いは事情で変わるので、早めに弁護士や司法書士、家庭裁判所に相談してください。
放棄すると、ほかの相続人に影響しますか?
放棄した人は初めから相続人でなかったことになります(民法939条)。そのため、次の順位の人が相続人になることがあります。親族に伝えておくと、あとで揉めにくくなります。
後見人は、被後見人の借金の通知が来たらどうしますか?
通知を捨てずに、日付と内容を記録しておいてください。実家で未払いの督促状が郵便受けにあふれていた経験から、届いたものは日付ごとにまとめておくと、あとで期限を説明するときに助かります。
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※この記事は一般的な情報で、法律の助言ではありません。相続放棄の期限、利益相反、後見の立場で必要な手続きは、個別の事情で変わります。申述の前に、家庭裁判所や弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
この記事を書いた人:くじら99(元・成年後見人)
300km離れた認知症の叔父の成年後見人を、家庭裁判所に選ばれて、会社員のまま3年務めました。法律の専門家ではありません。家庭裁判所に出した書類や見積書など、記録が残っていることを書いています。運営者について
