私が成年後見人を務めた親族のAさんは、預金が口座にちゃんとありました。それなのに、施設の利用料を1円も払えない時期がありました。
Aさんが認知症と診断され、銀行口座が凍結されたからです。成年後見の申立てから、後見人として登記が終わるまで約半年。その間も、有料老人ホームの利用料は月十数万円ずつ発生し続けました。
私は300km離れた場所に住む会社員で、Aさんの成年後見人を3年間務めました。この記事では、そのとき施設とどう話して支払いを待ってもらったかと、「お金が足りない」「お金はあるのに下ろせない」それぞれの場合に使える制度をまとめます。
先に結論
- 払えないとわかった時点で、滞納する前に施設の相談員に話す。黙って滞納するのが一番まずい
- 「お金はあるのに下ろせない」(口座凍結)なら、銀行への相談と成年後見の申立てを同時に進める
- 「お金が足りない」なら、高額介護サービス費・負担限度額認定・生活保護などの制度を先に確認し、それでも足りなければ費用の安い施設への住み替えを考える
この記事でわかること
- 老人ホームの費用を滞納すると、何が起きるか
- 口座凍結で払えなかったときに、私が施設にしたこと
- 費用を軽くする公的な制度
- 住み替え・家の売却という選択肢
- 子どもに支払いの義務はあるのか
この記事を書いた人:くじら99(元 成年後見人)
遠方(300km以上)に住む認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され成年後見人を務めた経験を持つ会社員。
免責事項
当サイトは個人の成年後見業務の実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。個別具体的な手続きについては、弁護士・司法書士などの専門家や管轄の家庭裁判所等へご相談ください。
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1. 老人ホームの費用はいくらかかるか
まず相場です。生命保険文化センターの調査(2024年度)では、介護にかかった費用は次のとおりでした。
| 項目 | 平均 |
|---|---|
| 月々の費用(全体) | 9.0万円 |
| 月々の費用(在宅) | 5.3万円 |
| 月々の費用(施設) | 13.8万円 |
| 一時的な費用(住宅改修・介護用ベッドなど) | 47.2万円 |
| 介護をした期間 | 55.0か月(約4年7か月) |
出典:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
施設に入ると、月14万円近くが4年以上続く計算です。年金だけでは足りないことが多く、預貯金を取り崩していくのが一般的です。
Aさんの場合も、特養の空きを待つあいだに入った有料老人ホームは、特養より月額が高く、年金だけでは足りませんでした。
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2. 払えないまま滞納すると、どうなるか

この章の結論:いきなり追い出されることはまずありません。ただ、黙って滞納を続けると、最後は契約の解除になります。
老人ホームの利用料を滞納すると、一般的には次の順で進みます。
- 施設から電話や書面での督促
- 身元引受人・連帯保証人への連絡:入居のときに署名した家族に請求がいきます
- 契約解除の予告:多くの入居契約書には、一定期間の滞納で施設側が契約を解除できる条項があります
- 退去:次の行き先が決まらないまま退去を求められることもあります
どのくらいの滞納で解除になるかは、施設ごとの契約書(重要事項説明書)で違います。払えないとわかったら、まず契約書の「契約の解除」の項目を確認してください。
大事なのは、施設も、入居者を追い出したいわけではないということです。
相談員は、支払いが遅れる事情を早めに知らせてもらえれば、待ってくれたり、制度を一緒に探してくれたりすることがあります。困るのは、連絡がないまま滞納が続くことです。
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3. 「払えない」には3つのパターンがある
払えない理由によって、打つ手がまったく違います。
| パターン | よくある例 | 主な対処 |
|---|---|---|
| ① お金はあるのに下ろせない | 認知症で口座が凍結された、本人が亡くなって口座が止まった | 銀行に相談、成年後見の申立て、施設に支払いを待ってもらう |
| ② 一時的に足りない | 入居一時金や医療費が重なった、年金の支給月の前 | 施設に分割や支払日の変更を相談 |
| ③ 毎月ずっと足りない | 年金と貯金では月額が賄えない | 軽減制度、生活保護、費用の安い施設への住み替え、家の売却 |
私が経験したのは①です。次の章で、そのとき何をしたかを書きます。
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4. 【実体験】口座凍結で払えなかった半年間、施設にしたこと

4-1. 預金はあるのに、1円も下ろせなかった
Aさんは認知症などで倒れて入院し、退院後はショートステイ、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム(特養)と居場所を移しました。自宅はゴミ屋敷になっていて、戻れる状態ではありませんでした。
特養は申し込んでも空きの時期は約束できないと言われ、つなぎとして民間の有料老人ホームと契約しました。
ところが、Aさんが認知症と診断されたことで、銀行口座は凍結されていました。預金残高はあるのに、本人も家族も引き出せません。口座を動かすには、成年後見人が選ばれて登記されるのを待つしかありませんでした。
申立てから登記完了まで、約半年。その間も施設の利用料は月十数万円ずつ発生し続けます。施設に断られたら、私が毎月立て替えるしかない状況でした。
4-2. 相談員に頭を下げて、事情をすべて話した
私は施設の担当相談員に頭を下げ、次のことを正直に説明しました。
- Aさんの預金はあるが、認知症で口座が凍結されていること
- 成年後見の申立て中で、後見人が選ばれれば口座から払えること
- だから、選任されるまで支払いを待ってほしいこと
相談員は親身になって、事情を理解してくれました。
4-3. 待ってもらうために続けた3つのこと
待ってもらえたのは、相談員の人柄だけでなく、こちらが状況を見せ続けたからだと思っています。
- 手続きの進み具合を、こまめに電話で伝えた:「家庭裁判所の面談が終わりました」「審判書が来週届く予定です」など
- 施設に行ったときは、必ず相談員に直接あいさつした
- 施設からの報告に協力した:Aさんの認知症による行動の変化を聞き、面会のときの安全や、無理に説得しないといった対応の方針を一緒に決めた
結果として、登記が終わるまで支払いを待ってもらえました。登記のあとは、法務局の証明書を持って銀行で口座の名義を後見人に変え、待ってもらっていた分の利用料をまとめて振り込みました。
4-4. 振り返って思うこと
払えないこと自体より、「いつ払えるのか」が見えないことのほうが、施設にとっては不安なのだと思います。手続きの見通しを伝え続けたことが、一番効きました。
成年後見の申立ての流れと期間は、成年後見人の申立て期間は半年!?に、施設とのやり取りの全体は成年後見人の施設選びと特養入所待ちのリアルに書いています。
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5. 口座が凍結されて払えないときの対処法
この章の結論:銀行への相談と成年後見の申立てを同時に始め、その間は施設に支払いを待ってもらう。
5-1. まず銀行に相談する
全国銀行協会は2021年2月に、認知症の人の預金について、本人のための支払い(医療費や介護施設の費用など)であれば、家族などによる引き出しに応じることを検討してよいという考え方を示しています。
ただし、どこまで応じるかは銀行ごとに違い、施設の請求書や家族関係の書類を求められるのが一般的です。断られることもあります。「施設の費用を払いたい」と目的をはっきり伝えて、窓口で相談してください。
5-2. 成年後見の申立てを早く始める
銀行が応じない場合、口座を動かす正式な方法は成年後見です。申立てから後見人の選任・登記までは、私の場合で約半年かかりました。始めるのが遅いほど、払えない期間が長くなります。
急ぐ事情がある場合は、家庭裁判所に「審判前の保全処分」(財産の管理者を先に選んでもらう手続き)を申し立てる方法もあります。使えるかどうかは家庭裁判所の判断なので、申立てのときに相談してください。
5-3. 家族が立て替えるなら、記録を残す
施設に待ってもらえず、家族が立て替える場合は、領収書と振込の記録を必ず残してください。あとで後見人が選ばれたときに、本人の財産から返してもらう根拠になります。
私も後見人になってからは、施設への支払いや日用品の購入など、すべての領収書を保管し、エクセルにまとめて家庭裁判所に報告できるようにしていました。
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6. お金が足りないときに使える制度
この章の結論:施設の費用は、制度で軽くできる部分があります。申請しないと使えないものが多いので、市区町村の介護保険の窓口に確認してください。
6-1. 高額介護サービス費
介護保険サービスの自己負担(1〜3割)が、1か月の上限を超えた分が戻ってくる制度です。上限は所得によって変わります。
| 区分 | 1か月の上限 |
|---|---|
| 課税所得690万円以上 | 140,100円(世帯) |
| 課税所得380万円〜690万円未満 | 93,000円(世帯) |
| 住民税課税世帯(上記以外) | 44,400円(世帯) |
| 住民税非課税世帯 | 24,600円(世帯) |
| 住民税非課税世帯で、年金収入と所得の合計が年80万円以下など | 15,000円(個人) |
| 生活保護を受けている人など | 15,000円(個人) |
注意:対象は介護保険サービスの自己負担分だけです。施設の居住費(家賃)・食費・日用品代は含まれません。
6-2. 負担限度額認定(特養などの食費・居住費の軽減)
特養や老健などの介護保険施設では、所得と預貯金が一定以下の人は、食費と居住費の負担が軽くなる制度があります(補足給付)。預貯金の基準は、単身でおおむね500万〜650万円以下(所得の段階による)です。
申請先は市区町村です。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は対象外なので注意してください。
6-3. 社会福祉法人による利用者負担の軽減
社会福祉法人が運営する特養などでは、収入が少ない人の利用料を軽くする制度を設けている場合があります。施設と市区町村に、対象になるか聞いてみてください。
6-4. 医療費控除
施設の種類によっては、介護費用の一部が医療費控除の対象になります。また、医師の「おむつ使用証明書」があれば、おむつ代も医療費控除の対象になります。Aさんも途中からおむつ代がかさむようになりました。領収書は捨てずに取っておいてください。
6-5. 生活保護
年金と貯金で施設の費用がどうしても払えない場合は、生活保護も選択肢です。生活保護を受けていても、特養などの介護保険施設には入れます。有料老人ホームは、生活保護の人を受け入れている施設が限られます。
相談先は、市区町村の福祉事務所です。
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7. それでも払えないなら:住み替えと家の売却
7-1. 費用の安い施設に移る
施設の種類によって、月々の費用は大きく違います。一般に、公的な特養は、民間の有料老人ホームより安く済むことが多いです。
Aさんの場合も、特養の空きが出るまでは、月額の高い有料老人ホームでつないでいました。特養の空きが出たあとは、有料老人ホームの退去手続きと日割りの精算、特養との新しい入所契約を、すべて後見人として代行しました。
ただ、遠方から一人で施設を探すのは本当に大変です。私は何十件も施設に電話をかけ、認知症を理由に断られ続け、週末のたびに新幹線で見学に行き、有給休暇を使い果たしました。
今なら、予算と条件を伝えて施設を探してもらえる無料の紹介サービスを先に使います。たとえばいい介護(PR)は、希望の地域・予算・介護の状態を伝えると、相談員が条件に合う施設を探してくれるサービスです。
「今より安い施設に移りたい」という相談もできます。
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いい介護のくわしい使い方は、老人ホーム探しをプロに丸投げできる「いい介護」にまとめています。特養への入所の流れは、特別養護老人ホーム入所と手続きのリアルをどうぞ。
7-2. 本人の家を売って費用にあてる
本人名義の家が空き家になっているなら、売却して施設の費用にあてる方法があります。
ただし、本人が認知症の場合、家族が勝手に売ることはできません。成年後見人が売る場合も、本人が住んでいた家(居住用不動産)を売るには、家庭裁判所の許可が必要です。私もAさんの家を、許可を取って売却しました。その手順は空き家になった実家を売るまでのリアルな全手順に書いています。
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8. 親の施設費用、子どもに払う義務はある?
この章の結論:施設の費用は、本人のお金から払うのが基本です。子どもは、契約書で保証人になっていれば請求されます。
- 本人のお金が基本:施設の利用契約は本人(または代理人)と施設の契約なので、まず本人の年金と預貯金から払います
- 身元引受人・連帯保証人になった家族は、契約にもとづいて請求されることがあります。入居のときにどの立場で署名したか、契約書を確認してください
- 扶養の義務:民法では親子などに扶養の義務がありますが、自分の生活を犠牲にしてまで払う義務までは、一般に求められないと考えられています。家族で負担を分けるときは、誰がいくら出したかを記録しておくと、相続のときにもめにくくなります
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9. 払えないとわかったときのチェックリスト
- 入居契約書(重要事項説明書)の「支払い」「契約の解除」の項目を確認した
- 滞納する前に、施設の相談員に事情を話した
- 払えない理由が「下ろせない」のか「足りない」のかを整理した
- 口座凍結なら、銀行の窓口に施設費の支払いを相談した
- 必要なら、成年後見の申立ての準備を始めた
- 高額介護サービス費の申請をした
- 負担限度額認定の対象になるか、市区町村に確認した
- 医療費控除の対象になる領収書(おむつ代など)を保管している
- 費用の安い施設への住み替えを検討した
- 家族が立て替えた分の記録を残している
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よくある質問
Q. 老人ホームの費用を滞納したら、すぐに退去になりますか?
A. すぐに退去になることはまずありません。督促、身元引受人への連絡、契約解除の予告と段階を踏むのが一般的です。何か月の滞納で解除になるかは契約書で違うので、確認してください。払えないとわかった時点で、施設に相談するのが一番です。
Q. 親の口座が凍結されて施設費が払えません。どうすればいいですか?
A. 銀行の窓口に、施設の費用を払いたいと相談してください。全国銀行協会は、本人のための支払いであれば家族による引き出しに応じることを検討してよいとしています。銀行が応じない場合は、成年後見の申立てを始め、その間は施設に支払いを待ってもらえないか相談します。私はこの方法で、後見人の登記が終わるまで約半年待ってもらいました。
Q. 特養の費用も払えない場合はどうなりますか?
A. 特養では、負担限度額認定(補足給付)で食費と居住費が軽くなる場合があります。社会福祉法人による軽減制度がある施設もあります。それでも払えない場合は、福祉事務所で生活保護の相談をしてください。生活保護を受けていても特養には入れます。
Q. 子どもが親の施設費用を払わないといけませんか?
A. 施設の費用は本人のお金から払うのが基本です。ただし、入居のときに連帯保証人や身元引受人として署名していれば、契約にもとづいて請求されることがあります。
Q. 施設費を家族が立て替えたら、あとで返してもらえますか?
A. 本人のための支払いであれば、あとで本人の財産から返してもらえる可能性があります。成年後見人がついた場合は、領収書などの記録をもとに精算します。記録がないと証明できないので、必ず残してください。
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まとめ|「払えない」は、黙っているのが一番まずい

- 施設の費用は、施設に入ると平均で月13.8万円
- 滞納しても、すぐ追い出されることはまずない。ただ、黙って滞納するのが一番まずい
- 口座凍結なら、銀行に相談し、成年後見の申立てを急ぎ、施設に支払いを待ってもらう
- お金が足りないなら、高額介護サービス費・負担限度額認定・生活保護を確認する
- それでも足りなければ、費用の安い施設への住み替えや家の売却を考える
私が施設に支払いを待ってもらえたのは、事情を正直に話し、手続きの見通しを伝え続けたからでした。払えないとわかったら、まず施設の相談員に話してください。
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くじら99(元・成年後見人)
300km離れた認知症の親族Aさんのため、働きながら家庭裁判所に選任され、成年後見人を3年間務めました。口座凍結中の施設費の支払い猶予の交渉、有料老人ホームから特養への住み替え、実家の売却、特養での看取りまで実務で対応しました。
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