母が亡くなり、相続人は私と兄、そして認知症の父。遺産分割の話し合いを始めたいのに、父は内容を理解できそうにない。そんな状況の方へ。相続の入口で止まってしまう、よくある場面です。
私は、認知症の叔父の成年後見人を3年務めました。ただ、私が叔父の相続手続きそのものをしたわけではなく、相続人に認知症の人がいる相続の経験もありません。この記事は、後見人として家庭裁判所に報告してきた立場から、制度を公的な情報で確かめて書いた解説です。
結論:認知症の相続人の代わりに、成年後見人が話し合いに入る

相続人の中に、判断力が十分でない人がいると、その人を除いたり、家族が代わりにサインしたりして遺産分割を進めることはできません。民法3条の2は、意思表示をしたときに意思能力がなかった法律行為は無効としています(民法3条の2、2026年10月19日にe-Gov法令検索で確認)。
つまり、相続人に認知症の人がいるときは、成年後見人を選んでもらい、その後見人が本人に代わって話し合いに加わるのが基本の道筋です。本人が契約できる状態かどうかは、個別の事情で変わるので、医師や専門家に確かめてください。
三つの場面で、やることが違う
| 場面 | 状況 | 最初にやること |
|---|---|---|
| A | 認知症の相続人に、まだ後見人がいない | 家庭裁判所に後見開始の申立てを検討する。申立てから後見人が決まるまで、協議は始められない |
| B | 認知症の相続人に、すでに後見人がいる(後見人は第三者) | 後見人が本人の代わりに協議に参加する。連絡先は後見人になる |
| C | 後見人自身も、同じ相続の相続人である | 後見人は本人の代理ができない。家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる |
場面A:後見人がいないときは、後見の申立てから
後見人がまだいない場合、認知症の相続人のために、家庭裁判所に後見開始の申立てをすることになります。私が実際に通った申立ての流れは、成年後見人になれるのは誰かの記事に書いています。
ここで押さえておきたいのは、後見は、遺産分割が終わっても自動的には終わらないことです。
裁判所の案内では、本人が判断能力を取り戻すか、亡くなるまで続くとされています。遺産分割をするためだけに、後見人を選んでもらってすぐやめる、という使い方はできません(裁判所「成年後見Q&A」、2026年10月19日確認)。
私が後見人として務めた3年間は、毎月の支出を1円単位で家庭裁判所に報告し続ける日々でした。後見をつけるかどうかは、相続の都合だけでなく、その後の何年かを誰が担うかまで含めて決めることです。
私が見てきた「後見がつく前に動けない」苦労
叔父は認知症の診断で口座が凍結され、後見人の登記まで約半年、お金を引き出せませんでした。相続人の話ではなく本人の口座の話ですが、判断力が落ちた人の手続きは、後見が決まるまで止まる場面がある、という点は同じです。
場面C:後見人が相続人でもあるときは、特別代理人が必要

家族が後見人になっている場合に、見落としやすいところです。
たとえば、母が亡くなり、長男が認知症の父の後見人で、相続人は長男と父の二人。長男は自分の取り分と、父の取り分の両方を決める立場になってしまいます。
民法860条は、後見人と本人の利益が相反する行為について、後見人が特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならないとする規定(826条)を準用しています。ただし、後見監督人がいる場合は適用されません(民法826条・860条、2026年10月19日にe-Gov法令検索で確認)。
裁判所の案内でも、後見人と本人が共同相続人として遺産分割協議をする場合が例に挙がっています。後見監督人がついているときは、監督人が本人を代理するので特別代理人は要りません。申立ての手数料は収入印紙800円分で、郵便料は裁判所ごとに違います(裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)に関する特別代理人(臨時保佐人・臨時補助人)の選任」、2026年10月19日確認)。
私自身は、後見監督人はついていませんでした。また、利益相反が問題になる相続の場面には立ち会っていないので、このあたりは制度の説明にとどめます。実際に必要かどうかは、後見開始の審判をした家庭裁判所に確かめてください。
相続放棄を考えるなら、期限の数え方に注意
相続するか放棄するかは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に決めます(民法915条、2026年10月19日にe-Gov法令検索で確認)。認知症の相続人には、この期限の数え方に特則があります。
民法917条は、相続人が成年被後見人であるときは、3か月の期間を、その法定代理人(後見人)が相続の開始を知った時から数えるとしています(民法917条、2026年10月19日確認)。後見人が決まる前の期限がどうなるかなど、個別の事情で変わる点は、弁護士・司法書士に早めに聞いてください。
判断の基準:どこまで家族で進めて、どこから専門家に頼むか

全部を調べ切って、自分たちだけで進める必要はありません。私が現実的だと考える線引きは、次のとおりです。
- 相続人が誰かを確かめる:戸籍で相続人をそろえる。ここまでは家族でできます
- 認知症の相続人の状態を、書き留める:診断書の有無、介護認定の状況、後見人がいるか。判断力があるかどうかは、自分たちで決めない
- 場面A・B・Cのどれかを見分ける:特に、後見人が相続人でもあるかどうかは、必ず確かめる
- 裁判所への申立てと遺産の分け方の話し合いは、専門家に任せる:本人の取り分をどうするかは、本人の利益を守る立場の人が見る点なので、家族の都合だけで決めない
- 相続放棄を考えるなら、期限が来る前に専門家へ:期間は3か月(民法915条、上で確認した日付のとおり)と短いので、迷う時間を残さない
そして、どの段階でも記録を残してください。いつ、誰に、何を聞き、どう答えがあったか。なぜその順番で進めると決めたか。私は後見人として、領収書に番号を振り、通帳と突き合わせて報告しました。家族だけで進める相続でも、同じ形のメモがあれば、あとで兄弟や親族に説明するときに役立ちます。
相続の手続きを、誰に相談するか
戸籍の収集や、遺産の分け方の整理、手続き全体の窓口を探しているなら、相続手続きの相談を受け付けている「相続アシスト」(PR)に、まず自分の場合の進め方を聞いてみる方法があります。料金や対応範囲は、公式サイトで確かめてください。
私は叔父の相続手続きそのものをしていないので、各社の使い心地は書けません。相談するときは、「相続人の中に認知症の人がいる」ことを最初に伝えると、話が早く進みます。
よくある質問
認知症の相続人を除いて、遺産分割を進められますか?
相続人の一部を除いた話し合いで、遺産分割を終わらせることはできないのが原則です。ほかの相続人は、本人に代わる後見人が決まるまで待つことになります。具体的な進め方は、弁護士・司法書士に確認してください。
家族が代わりに署名してもよいですか?
おすすめしません。本人に意思能力がないまま作った書面は、無効と争われるおそれがあります。民法3条の2の考え方は、上に書いたとおりです。
後見人の費用は、誰が払いますか?
後見人への報酬は、家庭裁判所が決め、本人の財産から支払うのが一般的です。金額や決まり方は、成年後見人の報酬はいくら?の記事や、裁判所の案内も確かめてください。
後見人がついたあと、本人が亡くなったらどうなりますか?
本人が亡くなると後見は終了し、後見人は家庭裁判所への報告と、後見終了の登記申請をします。くわしくは被後見人が死亡したら後見人がやることの記事に書いています。
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相続の進め方を、まず相談する
相続人の中に認知症の人がいると、何から手をつけるか迷います。相続手続きの相談ができる「相続アシスト」に、自分の場合の進め方を聞いてみるのも一つの方法です。
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※この記事は一般的な情報で、法律の助言ではありません。相続の進め方や、後見・特別代理人・相続放棄の手続きは、個別の事情で変わります。家庭裁判所や弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
この記事を書いた人:くじら99(元・成年後見人)
300km離れた認知症の叔父の成年後見人を、家庭裁判所に選ばれて、会社員のまま3年務めました。法律の専門家ではありません。家庭裁判所に出した書類や見積書など、記録が残っていることを書いています。運営者について

