目次
はじめに:教科書通りには進まない「申立て手続き」のリアル
こんにちは、元・成年後見人のくじら99(@9jira99)です。
親族が突然倒れ、病院や役所から「ご本人のために、成年後見人をつけてください」と言われたあなた。ネットで申立ての手順を検索し、その手間の多さに途方に暮れているのではないでしょうか。
家庭裁判所や法律事務所のホームページには、「申立てから選任までは約1〜2ヶ月です」と綺麗に書かれています。
くじら99しかし、現場のリアルは全く違います。
私の場合、倒れてから成年後見人として法的に動けるようになるまで、なんと「約半年」もの長い月日がかかりました。
今回は「成年後見人になるには、具体的に何をすればいいのか?」について、私が実際に経験した壮絶な流れを時系列で包み隠さず公開します。
書類手続きが苦手な方、あるいは遠方に住む親族のケアに直面している方にとって、このリアルな体験記が最良のシミュレーションとなれば幸いです。
この記事を書いた人:くじら99(元 成年後見人)
遠方(300km以上)に住む認知症の親族のため、働きながら家庭裁判所に選任され成年後見人を務めた経験を持つ会社員。
免責事項
当サイトは個人の成年後見業務の実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。個別具体的な手続きについては、弁護士・司法書士などの専門家や管轄の家庭裁判所等へご相談ください。
第1章:ある日突然やってくる「資産凍結」。申立てへのプロローグ


【2020年6月】叔父の緊急搬送と認知症の診断
すべては、コロナ禍による移動制限が厳しかった2020年6月。
300km離れた地方に住む叔父(Aさん)が突然倒れ、緊急搬送されたという知らせから始まりました。
病院での診断結果は、身体的な衰えだけでなく「認知症」が進行しているというもの。一人暮らしの自宅へ戻ることは困難となり、そのまま介護施設へ入所することになりました。
さらに、倒れる前から近隣住民への迷惑行動(ゴミの放置など)が見られるようになっていたことも発覚し、ご本人の生活環境と財産を法的に守る必要性が一気に高まっていたのです。
【2020年7月】役所からの通告と「成年後見制度」の決断
施設への入所が決まると、当然ながら毎月の「施設費用」が発生します。
しかし、叔父はすでに判断能力を失っているため、銀行口座は実質的に「凍結状態」。親族である私でも、叔父の預金を引き出して施設費用に充てることはできません。
このままでは、施設費用はもちろん、誰も住んでいない実家の公共料金や固定資産税の支払いも滞り、最悪の場合はライフラインが停止してしまいます。
社会福祉協議会の担当者から「この状況を解決するには、家庭裁判所で成年後見制度を利用するしかありません」と強く勧められ、私は腹をくくりました。
第2章:絶望のスタート。申立てに必要な「書類集め」のリアル
【2020年8月】果てしない書類準備との戦い
申立てを決断したものの、何から手をつけていいか分からなかった私は、現地の弁護士にサポートを依頼しました。
そして渡された「申立てに必要な書類リスト」を見て、目眩がしました。
- 法定相続人(親族)の同意書: 他の親族に「私が後見人になることに賛成してくれ」と説明し、署名捺印をもらう。
- 不動産の登記事項証明書: 実家の権利関係を証明する書類。
- 預貯金の通帳(全金融機関): 過去の履歴もすべて必要。
- 保険証券: 生命保険などの契約状況。
- 収支の証拠: 年金通知書や、直近の請求書など。
これらを一つひとつ集める作業は、想像を絶する大変さです。
特に、地方銀行の通帳などは、300km離れた私の自宅近くには支店がなく、記帳すらできません。
「本人でないと対応できない」と窓口で何度もたらい回しにされ、やむを得ず現地の弁護士に代理対応をお願いしたこともありました。
【引用:成年後見関係事件の処理期間】
最高裁判所の統計(令和4年)によると、成年後見開始の申立てから認容(審判)までの期間は、「1か月以内」が約28.3%、「1か月超〜2か月以内」が約50.4%となっています。
出典:[最高裁判所事務総局「成年後見関係事件の概況」]
裁判所のデータ上は「申立てをしてから1〜2ヶ月で決まる」となっていますが、そもそも「申立てをするための完璧な書類を揃えるまで」に、私のように数ヶ月かかるケースが非常に多いのが現実なのです。
第3章:家庭裁判所での面談と「審判」の決定
【2020年9月】弁護士への依頼と申立書の提出
集められる限りの書類をかき集め、弁護士に預けて「申立書」の作成と家庭裁判所への提出を依頼しました。
申立書には、本人の財産目録だけでなく「なぜ後見人が必要なのか」「今後の生活をどう支援していくのか」を論理的に記載する必要があります。
専門家に任せることで、形式面での不備や記載漏れによる「やり直し(時間のロス)」を防ぐことができました。ここはお金を払ってでも、絶対にプロに頼るべきポイントだと痛感しています。
【2020年11月中旬】緊張の家庭裁判所面談
申立てから約2ヶ月後、家庭裁判所に呼び出され、調査官との面談が行われました。
面談では、以下のようなことを厳しく問われます。
- 「Aさんの現在の財産状況を正確に把握していますか?」
- 「あなた自身が遠方に住んでいて、本当に後見人としての業務(財産管理や身上保護)が務まりますか?」
- 「他の親族から反対は出ていませんか?」



親族だからといって無条件に選ばれるわけではありません。
「横領などのリスクはないか」「任せても大丈夫か」を面接でしっかり見極められます。私は、遠距離でも弁護士と連携してサポートする覚悟を伝えました。
【2020年11月下旬】審判(開始通知)の到達
面談から数週間後、ついに家庭裁判所から「審判書(成年後見を開始し、私を後見人に選任するという決定)」が自宅に届きました。
第4章:【重要】選任を待つ「空白の半年間」に襲いかかる立て替え地獄



倒れた6月から、審判が下りる11月下旬までの約半年間。
手続きの時系列だけを見れば「ただ待っていただけ」に見えるかもしれませんが、実はこの「空白の期間」こそが、家族にとって最大の試練となります。
なぜなら、後見人に選任されて銀行口座の凍結が解除されるまでの間も、現実の生活と支払いは「待ったなし」で進んでいくからです。
- 施設費用の支払い猶予交渉:凍結された口座からは施設のお金が払えません。私は施設の相談員に何度も頭を下げ、「後見人の申立て中なので、支払いを数ヶ月待ってほしい」と頼み込みました。
- 公共料金の一時保留と立て替え:引き落としができない実家の電気代や水道代の督促状が、私の自宅に転送されてきます。ライフラインを止められるわけにはいかず、仕方なく自分のポケットマネーで数十万円を一時的に立て替えて支払いました。
- 鳴り止まない電話とたらい回し:各契約先に「本人が認知症になったので手続きを止めたい」と電話しても、「後見人の証明書(登記事項証明書)を出してください。それまでは対応できません」と冷たくあしらわれます。
成年後見人に「正式になる前」から、実質的な管理者としての重い責任と精神的な消耗が、容赦なく私にのしかかってきたのです。
第5章:【2020年12月下旬】ついに登記完了。しかし本当の戦いが始まる


家庭裁判所から審判書が届き、さらにそこから「法務局での登記」が完了してはじめて、私は法的に完全な成年後見人として認められました。
倒れた6月から計算して、ここまで実に「約半年」。



思っていた以上に途方もない時間がかかりました。
【引用:成年後見登記とは?】
成年後見登記制度は,成年後見人等の権限や任意後見契約の内容などを,コンピュータシステムによって登記し,その証明書(登記事項証明書)を発行することによって登記情報を開示する制度です。
出典:[法務省:成年後見登記制度について]
この「登記事項証明書」を手に入れたことで、ようやく施設費用の未払いなどを叔父の財産から精算できる!と安堵しました。
就任後に押し寄せる「実務とたらい回し」の連続
成年後見人としての登記が完了したからといって、すべてが自動的に進むわけではありません。
むしろここから、私の貴重な休日と有給休暇を削る「実務」が本格的にスタートしました。
- 金融機関での名義変更と入出金管理:「私は後見人です」と証明書を見せても、銀行ごとに手続きのルールが全く異なります。「本部に確認します」と窓口で数時間待たされることは日常茶飯事でした。
- 介護費用の支払いと振込手続き:ショートステイや特養(特別養護老人ホーム)の費用を毎月遅れずに支払うため、銀行の窓口やATMに通い続ける日々。
- 電気・ガスなど公共料金の契約見直し:無人の実家にかかる固定費を減らすため、電話をかけて解約や休止の手続きを進めます。しかし、ここでも「ご本人様でないと…」「後見人の証明書を郵送してください」と、冷酷なたらい回しに遭いました。
電話はつながらない、窓口は平日しか開いていない、記帳のたびに交通費と時間が飛んでいく。
「叔父を守るため」とはいえ、成年後見人としての業務は、精神的にも肉体的にも私を激しく消耗させていきました。
第6章:経験者が痛感した「制度の現実」と「早い備え」の重要性
誤解のないように言っておきますと、成年後見制度自体は、認知症などで判断能力を失った弱者を社会から守るための、大変素晴らしいセーフティネットです。
しかし、実際の運用においては、「手続き・調整・窓口対応」が山積みであり、家族にかかる負担があまりにも大きすぎるというのが、偽らざる現場のリアルです。
もし、あなたの親御さんがまだ元気で、判断能力がしっかりしているなら。
私と同じ苦労をしないために、「家族信託」という選択肢をどうか知っておいてください。親が元気なうちに信頼できる家族へ財産管理を託しておくことで、裁判所の監督下に入ることなく、認知症による資産凍結を未然に防ぐことができます。
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第7章:よくある質問(成年後見人の申立て・期間について)
ここで、私がよく相談を受ける「申立て手続き」に関する疑問にお答えします。
Q. 申立てから選任までの間、本人の口座からお金を下ろす「裏ワザ」はありますか?
A. 原則としてありません。 キャッシュカードの暗証番号を知っていたとしても、本人が認知症である以上、無断での引き出しは親族間トラブルや法的な問題(横領)に発展するリスクがあります。選任されるまでは、家族による「立て替え」が必要になる覚悟を持っておくべきです。
Q. 登記が完了すれば、すぐに銀行でお金が下ろせますか?
A. いいえ、すぐには下ろせません。 法務局で登記事項証明書を取得した後、各金融機関の窓口に出向き「成年後見人の届出(名義の変更手続き)」を行う必要があります。これには数時間〜数日かかることが多く、非常に煩雑です。
Q. 遠方に住んでいても、後見人になれますか?
A. なれますが、負担は相当なものです。 裁判所とのやり取り、現地の施設や役所・金融機関への訪問など、移動のコストと時間が重くのしかかります。弁護士などの専門家のサポートをうまく活用することが必須と言えます。
まとめ:手続き地獄を経験したからこそ、伝えたいこと
叔父が倒れてから、成年後見人に選任され、そして日常的な財産管理の業務に追われる日々。
この半年間で私が得た教訓は、「人生の大切な時間を、複雑な役所手続きや窓口のたらい回しに奪われてはいけない」ということです。
そして最後に、この記事を読んで「成年後見人の手続きだけでも大変そうだな…」と感じたあなたに、一つだけお伝えしなければならない残酷な現実があります。
それは、本人が亡くなり、成年後見人の任務が終わった直後に、今度は「相続手続き」という名の更なるたらい回し(戸籍収集や名義変更、税務申告)が待っているということです。
成年後見人で心身を削られたあなたが、相続手続きまで自力で抱え込む必要はありません。



自分でやる苦労は、成年後見人だけで十分です。
その後の手続きは、迷わずプロに頼るという選択肢を持ってください。
次回は、実際に後見人としてどのように収支を管理し、家庭裁判所へ定期報告を行っていたのかについて、より具体的なリアルをお伝えします。
それでは、また!


※当サイトは実体験に基づく情報提供であり、法的なアドバイスを行うものではありません。個別具体的な手続きは、必ず専門家にご相談ください。









